調査報告書
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拡張する研究開発エコシステム 研究資金・人材・インフラ・情報循環の変革に乗り出すアントレプレナーたち

エグゼクティブサマリー

「研究開発の現場を何とかしたい」、「研究開発が営まれる産学官のシステム全体をよりよくしたい」。そんな思いから、様々なアイデアを考案し、大胆に実行に移す人々がいる。本レポートでは、研究開発のエコシステムの改善を目指す、そうしたボトムアップな取り組みの国内外の動向を報告する。

研究開発を持続的に推進するための知識・ノウハウ、人材、資金の循環や研究開発を支えるインフラ、研究開発活動のあり方を方向づける制度・慣習等からなるシステム全体を「研究開発エコシステム」と呼ぶことにすれば、このエコシステムがよりよく機能することは研究開発に携わる各ステークホルダーにとっての関心事であるとともに、科学技術・イノベーション(STI)政策の主たる目標でもある。昨今、この研究開発エコシステムには、研究インテグリティ、オープンサイエンス、地球規模課題への対応などに加え、情報通信技術が可能にする新しい研究スタイル(研究DX)への期待など、様々な変化が求められている。加えてわが国では「研究力向上」への強い問題意識から、大きく政策が動いている最中である。

一方、そうした政策の方針決定に起点を持つ取り組みとは別に、研究開発エコシステムの中から自らの問題意識とアイデアで研究開発エコシステムを拡張・変革すべく、自らリソースを割きリスクをとって、提言・事業立ち上げをする自発的な動きがある。従来の公的資金や産学連携とは異なる資金の流れをつくるクラウドファンディング、研究機器や設備の共有やリユースを手掛ける民間サービス、研究者の新しい働き方を実現するキャリア支援サービス、新たな学術コミュニケーションを実現するメディアや議論の場づくりなど、それぞれの創意工夫のもと研究開発エコシステムを拡張し、独自の役割を果たそうというアントレプレナーたちの動きである。


図 拡張する研究開発エコシステム

こうした人々は、自らのリスクで新しいアイデアを探索・試行している。彼らには公的セクターや既存の産業セクターでは実現しにくい発想の自由度、機動性の高さ、リスクテイクへの意欲が見られ、研究開発エコシステムの変革を既存セクターがなしえない形で起こす可能性を持つと考えられる。

本レポートでは、 現在、日本で多数登場している研究開発エコシステムを改善、あるいは拡張することを目指す非従来型の新しい取り組みが登場していること(第2章)、海外では新たな取り組みがダイナミックに展開し、実際に研究開発エコシステムを変革・拡張する駆動力になっていること(第3章)を報告する。

今後の発展のためには、 各種取り組みを持続的にするための「アイデア・実行力」「資金」「ノウハウ・スキル」のマッチングが必要となる。一部の海外事例に見られるような、研究開発エコシステムの変革・拡張を担うアントレプレナー、財団等のフィランソロピーセクター、メタサイエンス拠点、公的セクターによる協働体制の構築に向けた対話の機会が増えていくことが望ましい(第4章)。

本レポートは、大学・企業・公的機関などで研究開発、研究管理、研究支援その他の業務に携わる方々には、日々の活動に役立つ可能性のある取り組みを知るきっかけとして、政策・行政関係者をはじめ研究開発エコシステムの長期的な改善に携わる方々には、今後の議論の一つのきっかけとして活用いただくことを期待している。

※本文記載のURLは2023年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。