科学技術未来戦略ワークショップ報告書
  • バイオ・ライフ・ヘルスケア

生体レジリエンス、加齢の基盤的な理解と健康・医療モダリティのシーズ創出

エグゼクティブサマリー

JST–CRDSでは、加齢に伴う老化に着目した研究が近年著しい進展を見せつつあり、将来的には社会・経済上の波及効果も非常に大きいと考えられるため、わが国において先端計測・解析技術開発、基礎生命科学研究、基礎医学研究、臨床研究・臨床試験の戦略的な推進が必要、という仮説を提示した。それに対し、21名の有識者にご参加頂き、最新の研究開発動向の発表、および参加者全員が参加した議論を行なった。 本ワークショップの結果、JST–CRDSが提示した仮説について、妥当性が確認された。そして、更なるブラッシュアップに向けた多くの示唆が得られた。概要は次の通りである。

<研究テーマ関連>

  • オミクス、イメージングなどの計測、およびAIも含むデータ解析技術の進展は著しい。それら技術群を高度化しつつ、かつ生命科学・疾患研究者が活用していくことが重要。
  • 老化は個体差が大きい。モデル生物を用いた研究などで、個体差の観点も含めた研究が重要。
  • 例えばオートファジーや免疫・炎症や細胞競合など、多様な分野の研究者が老化研究を進めることで、新展開を見せつつある。多様な分野の研究者が、老化研究に参入することが重要。
  • 老化の評価指標の確立が、老化研究の推進、さらに臨床応用の推進において重要。
  • 主に米国で老化研究の成果の臨床応用が加熱しているが、ベースとなるサイエンスが十分でない。老化のサイエンスの着実な推進が、結果的にインパクトの大きな臨床応用につながる。

<研究推進方法関連>

  • 研究プロジェクト全体の運営は、バーチャル研究所形式が望ましい。バーチャル研究所長は、短期~中期~長期的に成果を創出し続けるポートフォリオで研究者を採択する。そして、分野融合を促し、想定外の成果創出を高く評価する。
  • 老化研究のモデル動物研究で必要な老齢マウスの入手ハードルは高い。最先端の計測・解析技術は個々の生命科学・疾患研究のラボでは実施困難である。それら問題に対応した研究・技術支援基盤を構築することで、多様な分野の研究者が老化研究へ次々と参入すると考えられる。
  • 「 老化」は社会の関心も高い。老化研究を進める研究チームの1つにおいて、倫理の研究者、人文・社会科学の研究者、さらには一般の人々も参画し、継続的に意見交換をする枠組みを導入するのも有効。
  • 老化研究の社会への実装までを見据えると、産官学コンソーシアムの構築なども有効である。

なお、本ワークショップにおける検討も踏まえ、わが国が今後推進すべき研究開発戦略として、次の刊行物を2022年2月に公開済みである。

戦略プロポーザル「加齢に伴う生体レジリエンスの変容・破綻機構 −老化制御モダリティのシーズ創出へ−」 (掲載URL https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2021-SP-06.html

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。