科学技術未来戦略ワークショップ報告書
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生体感覚システム ~神経系を介した理解と制御技術の創出~

エグゼクティブサマリー

本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が2020年11月29日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ「生体感覚システム~神経系を介した理解と制御技術の創出~」に関するものである。

CRDS では国内外の科学技術動向及びそれらに関する政策動向の俯瞰、分析に基づき、課題を抽出し、研究開発戦略の提言を行っている。今回、超高齢社会である我が国における社会的課題の解決、サイエンスおよび健康・医療をはじめとする産業の観点で大きなインパクトが予想されるテーマとして、「生体感覚システム」研究の重要性について、今後の研究開発戦略に向けた深掘り調査を実施した。本ワークショップ(以下「WS」)報告書は関連分野で活躍している研究者に現状と展望を述べていただき、それに基づいた議論の結果を纏めたものである。

WSでは、「生体感覚システム」に関するCRDSからの課題を提示し、関連する研究について当該課題に関与する研究者から発表をいただくとともに、それぞれについて議論を行った。

実際の課題としては、(1)生活の質(QOL)の維持、向上に大きく影響するヒトの感覚機能について、生体感覚システムの「動作メカニズムの解明」、「全身機能との関係解明」、および「制御に向けた基盤技術の開発」を推進することの意義、(2)これらの研究の推進による、感覚器疾患の克服、脳神経疾患や生活習慣病の早期診断、予防、新規治療戦略の創出、エビデンスに基づく健康維持・向上につながる知的基盤の創出、誰もが心豊かで快適な生活を送れる社会の実現、である。

なお、ここで、「生体感覚システム」とは、生体内外の情報を受容する感覚器および臓器と末梢神経ネットワークで構成され、感覚機能が動作し、その機能が維持される仕組みをいう。また、対象とする「感覚」は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、痛覚、内臓感覚(内臓痛覚および臓器感覚)とした。

これらの課題について、感覚機能をシステムとして理解、研究する意義、方策、感覚横断的に研究を進めることによる効果、科学的、社会・経済インパクト、わが国が推進すべき領域、研究体制などについての議論の結果を集約する。

  • 近年、感覚と全身の生理機能、疾患との関係が多数報告されており、末梢の感覚器だけに留まらない研究の必要性が高まっていることが認識された。
  • 感覚器や各臓器で取得した情報は生体恒常性維持のための重要な情報源である。
  • これらを踏まえると、感覚研究の新展開として、全身の生理機能や末梢臓器、疾患との関係解明が挙げられる。これらからは、疾患の新しい治療法、予防法開発が期待される。
  • 感覚の種類を超えて存在する共通の情報処理メカニズムの解明は、「感覚統合」の実証や実態の解明につながり、ひいては、知覚、認知、情動など脳機能の理解と産業への応用に結びつくと期待される。
  • 研究開発体制としては、脳科学との連携の他、人工感覚器・新規インターフェースの開発、イメージング、神経操作技術の開発などの観点から、工学との連携が重要である。
  • また、網羅的な神経活動データの取得とデータベース構築、さらにこれらの時系列で膨大な情報量のイメージングデータ解析が見込まれ、情報科学との連携、またデータ駆動型研究への取り組みが必要である。

これらの議論・結果を踏まえ、CRDSでは国として重点的に推進すべき研究領域と具体的研究開発課題を検討し、研究開発の推進方法も含めた戦略プロポーザルとしてまとめつつ、関係府省や産業界・学界等に提案を行ってきた。戦略プロポーザルは「生体感覚システム ~受容からの統合的理解と制御に向けた基盤技術の創出~」として2021 年9月に発行、公表済みである。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。