戦略プロポーザル
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生体感覚システム ~受容からの統合的理解と制御に向けた基盤技術の創出~

生体内外の情報の受容に関わる感覚器、臓器、末梢神経ネットワークからなるヒトの生体感覚システムを統合的に理解し、その理解に基づく制御に向けた基盤技術を創出することにより、疾病予防と健康増進、疾患の新規治療戦略の創出などに寄与するための研究開発戦略を提言する。

本プロポーザルにおける「生体感覚システム」とは、生体内外の情報を受容する感覚器、臓器、末梢神経ネットワークからなり、感覚機能が動作し、その機能が維持される仕組みをいう。対象とする「感覚」は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、痛覚、内臓感覚(内臓痛覚および臓器感覚)とする。これらの視覚、聴覚、嗅覚といった一つ一つの感覚は、必ずしも独立に単独で存在するものではなく、それぞれが他の感覚や臓器、末梢神経ネットワークと相互作用し、一体となった、マルチモーダルな感覚の一つであると考えることができる。

感覚器は古くから研究され、基本的な仕組みの理解は深まりつつあるものの、感覚器疾患には未だ有効な治療法や治療薬がないものが多く、病態の解明も進んでいない。一方、近年のライフサイエンス研究・技術の急速な発展は、個々の分子・細胞に関する理解を進展させつつ、こうした個別の要素で構成される、より複雑なネットワーク全体を解き明かそうとしており、「臓器連関」解明への取り組みが見られる。また、脳科学においては、各種生理機能や運動、行動を脳機能から理解、制御しようとする研究開発が進んでおり、その出力に対応する入力として、感覚機能の重要性は高い。生体感覚システムを、自律神経を介して生体恒常性維持に関与するシステムの一つであり、個々の感覚は、マルチモーダルな感覚の一つであると位置づけて理解することで、感覚機能そのものの制御はもちろん、生体感覚システムを通じた脳機能や全身の生理機能の制御、疾患の克服という新しい治療戦略への道が拓けると考えられる。

そこで、本プロポーザルでは、ヒトの生体感覚システムについて、以下3つの課題に取り組むことを提案する。これにより、感覚器疾患の克服、脳神経疾患や生活習慣病の早期診断・予防・新規治療戦略の創出、およびエビデンスに基づく健康維持・向上につながる基盤的な知見の創出に寄与し、誰もが心豊かで快適な生活を送ることができる社会の実現に寄与するものと考えられる。

課題1:動作メカニズムの解明
・感覚器~末梢神経~中枢神経における情報受容・情報処理機構の解明
・生体感覚システムが機能し、恒常性が維持される仕組みの理解
・化学感覚(嗅覚、味覚)におけるリガンドと受容体との関係の解析

課題2:脳機能、全身機能との関係の解明
・生体感覚システムが脳機能、全身の生理機能、疾患に与える影響の解析
・循環器疾患、代謝性疾患、がんなどの疾患による生体感覚システムの変化や異常の解明
・味覚受容体、嗅覚受容体の全身における役割の解明

課題3:生体感覚システムの制御に向けた基盤技術の開発
・末梢神経の活動状態を計測し、広範囲、高分解能で計測するイメージング技術
・刺激に対する受容体の反応や末梢神経の活動状況を時系列データで取得する技術
・リガンド-受容体の反応予測を可能とする技術
・刺激に対する神経活動や応答(行動)を予測する技術
・生体感覚システムをin vitroで再現する技術(感覚受容体、オルガノイド、organ on chips)
・感覚(痛覚、嗅覚、味覚)を客観的に定量化する技術
・末梢神経の活動状態を検知し、可視化、定量化するデバイス
・生体内外で生体感覚システムに作用して、制御する技術およびデバイス

※本文記載のURLは2021年9月時点のものです(特記ある場合を除く)。