科学技術未来戦略ワークショップ報告書
  • 環境・エネルギー

機器の安全性を高める破壊・寿命予測の科学技術基盤の構築

エグゼクティブサマリー

本報告は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が2021年12月10日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ(WS)「機器の安全性を高める破壊・寿命予測の科学技術基盤の構築」に関するものである。

破壊現象は、機器に使用する材料や形状のみならず製作時の加工プロセスや使用環境にも大きく影響を受ける複雑な現象である。破壊現象の中でも実際の機器の破損の多くの要因となっている疲労破壊については、極めて単純化された系以外にはその発現機構、現象がほとんどわかっていない。このため、実際の機器の設計では、長い時間をかけて取得した多くの疲労実験データを基に、経験的・統計的手法で、個別問題として対応している状況である。疲労破壊現象の統一的・包括的理解は、依然として困難な研究課題である。

近年、計算機能力の飛躍的発展や解析手法の進展に伴い、マルチスケール・マルチフィジクスシミュレーションにより破壊現象を統一的に理解しようとする取組が活性化している。また、マイクロメカニクスや計測技術の発展に伴い、破壊の始まりに関連する微視的なサイズでの力学特性に関する実験が大きく進展している。更に欧米では、機械学習等のデータ科学的手法を用いたアプローチや、数学者や理論物理学者が参画して、破壊現象を普遍的に理解する試みやプロジェクトが進められている。

以上の背景を踏まえて、本ワークショップでは、疲労破壊および関連する研究について、専門家より話題提供をいただき、疲労破壊現象の一層の理解のために今後我が国として取り組むべき研究開発の方向性、研究課題、推進方法・体制、人材育成などについて議論を行った。

疲労破壊の研究課題としては、微視的な破壊の初期現象の解明と、初期現象のようなミクロな現象と実際の破壊というマクロな現象の間を橋渡しする部分が重要なテーマとの共通理解を得た。前者については、近年大きく進展した微視的サイズでの力学特性・疲労試験特性に関する実験や計測技術、あるいは計算機の飛躍的発展に伴う計算能力の向上や解析技術の進展が、従来できなかった疲労破壊の初期現象の解明の突破口となり得ることが示された。また、実際の機器における破壊現象の本質的な問題を理解した上で、基礎研究に反映することの重要であり、アカデミア(基礎研究)と産業界(応用)の両方を理解・解釈して結びつける人材の必要性が示された。

本ワークショップを通して得られた各種知見・情報や議論内容については、戦略提言を目指す今後の調査活動の参考とするとともに、その他のCRDSの各種活動にも最大限活用していく予定である。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。