科学技術未来戦略ワークショップ報告書
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未来材料開拓イニシアチブⅡ ~高機能材料の創製・分離・循環を実現する階層構造の自在制御~

エグゼクティブサマリー

 本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が2020 年6月17日、20日の2日間にわたり開催した科学技術未来戦略ワークショップ(WS)「未来材料開拓イニシアチブⅡ ~高機能材料の創製・分離・循環を実現する階層構造の自在制御~」に関するものである。
 我が国の貿易収支を支える製造業において、競争力の源泉は、高性能な機器や素材の製造を可能にする、材料技術・ナノテクノロジーにあると言える。資源に恵まれないというハンデを克服しながら、材料技術に関する強みを発揮し続けることを目的とした「元素戦略」は、過去10数年に及ぶ成果によって、国内だけでなく世界中に影響を与えてきた。しかしながら、近年における諸外国の資源政策に関する変化や、昨今のCOVID-19感染拡大を契機とするサプライチェーンの混乱など、脱グローバル化の流れも一部で見え始めている中、材料開発にも変革が求められている。また、製品に対する要求も、性能面だけでなく環境やエネルギー負荷の側面でも高度化する一方であり、それらの中核部品を構成する材料に対しても、時に相反関係にある機能も含め、多様な機能を同時満足することが期待されている。このような状況を受け、我が国としても「元素戦略」に次ぐ、新しい材料研究開発戦略の構築が急務となっている。
 本ワークショップは、CRDSが2019年7月に発行した戦略プロポーザル「未来材料開拓イニシアチブ」の概念を有機材料にまで拡張し、さらに新たな機能を有する材料の創製のみならず、材料の使用後の分離や循環まで考慮した材料設計指針を構築するためには材料における階層構造を自在に制御する技術が必要になるとの仮説の下、資源限界を超えた強固な材料開発基盤を構築し、技術的優位性を確保し続けるための研究開発戦略について議論を行った。
 まずJST-CRDSにおける調査・分析結果から得られた全体像、課題、研究開発戦略検討の仮説を提示した。その後、関連する新学術領域研究を中心とする先行研究事例の紹介、計算科学・シミュレーション技術、無機材料および有機材料における階層構造制御研究、分離・リサイクル技術それぞれの技術潮流に関する話題提供と質疑応答を行い、最後に総合討論を行った。
 特に、総合討論では、「階層構造」という言葉には様々な意味を含むため使い方には注意が必要であること、単に階層構造を高次にしていくだけではなく各階層の構造と機能の相関を理解することがより重要であること、コストの観点からはいかに機能を循環させるかという考えが必要であるとの意見が出された。一方、資源循環のために戦略的に階層構造を制御する点には新規性があり、具体的なアプリケーションや大きなビジョンを設定できれば科学技術としても大きな潮流になりうること、資源を無駄なく使うという観点からは「アップサイクルエコノミー」が共通のコンセプトになる可能性があることなどの認識を得ることができた。
 このワークショップでの議論を踏まえ、CRDSでは今後国として重点的に推進すべき研究領域、具体的な研究開発課題を検討し、研究開発の推進方法を含めて戦略プロポーザルを策定し、関係府省や関連する産業界・学会等へ提案する予定である。

※本文記載のURLは2021年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。