戦略プロポーザル
  • 材料・デバイス

物質循環を目指した複合構造の生成・分解制御 〜サステイナブル元素戦略〜

エグゼクティブサマリー

 本プロポーザルでは、材料創製(動脈側)と分離・リサイクル(静脈側)に共通のターゲットである複合構造の生成・分解制御に着目し、ブロック間結合の安定性と分解性の自在制御を目標にすることで、持続可能な循環型社会の実現に向けた研究開発を推進することを提案する。これにより、社会が求める材料使用時の機能を満足することに加えて、材料使用後の環境負荷低減や物質循環にも貢献できる可能性があることを示す。本プロポーザルを実行する上で取り組むべき研究開発課題として「複合構造の制御による新機能・新材料設計」を挙げ、それを可能にするために必要な「複合構造の生成・分解の科学の確立」「共通基盤技術の高度化」を取り上げる。「複合構造の制御による新機能・新材料設計」の実行においては、①複数のブロックをいかに組み合わせ、材料に要求される高機能化・多機能化を実現するか、②環境負荷低減や物質循環に向けて低コストの分解プロセスをいかに実現するかの観点が重要になる。また、ブロック間結合の安定性と分解性を制御するためには、既存材料における劣化・破壊機構の解明と、現在の分離・リサイクルプロセスの科学的な理解を通じて、「複合構造の生成・分解の科学」を構築することが必要である。さらに、上述の研究開発を推進するに当たっては、より複雑な現象を扱うことができるデータ科学を併用したシミュレーション技術や、計測技術を高度化する必要がある。特に、現状では未成熟である、分解プロセスを含む非平衡・非定常状態におけるシミュレーション技術の開発、反応・プロセスなどの時間発展を追える動的なデータを蓄積したデータベースの構築が必要になる。また同時に複合構造の生成・分解を実現する新たなプロセス技術の創出とそれを支えるハイスル―プット実験手法、プロセスの実時間計測手法の開発が必要となる。
 研究開発の推進にあたっては、材料科学、化学、物理学、計算科学、プロセス工学、データ科学、リサイクル工学、分離工学といった異なる学術的背景と研究動機を持つ異分野の研究者が同じ目的達成に向かい連携・融合した研究を進めることが重要になる。さらに、社会的インパクトや技術的可能性・経済合理性などを同時並行的に検討することも求められる。そのためには、各々の研究者の持つ学術的好奇心と応用への方向性を意図的に合致させていく政策的な仕組みや、目標を共有するための場の形成が必要である。例えば、異分野連携・融合研究の促進から、材料・製品のライフサイクル全体を考慮した産学連携型研究までを段階的に実施できるように、複数の研究プロジェクトを逐次的に設定することが有効である。また資源循環の観点からは、天然資源開発から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体を見渡した上で、どの資源を循環させるのか、どの機能を循環させるのかを立案できる人材の参画も必要となる。そのため、資源学、鉱物学、地球科学、環境学、環境政策学、経済学など、これまで材料開発とは直接的な関わりがなかった専門家を交え、多様な視点から俯瞰的に意見交換するための場を設定することも求められる。さらに、物質循環を産業界の主体的な活動に根付かせるための標準化や規制等の戦略的活用も進めるべきである。

※本文記載のURLは2021年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。