科学技術未来戦略ワークショップ報告書
  • 材料・デバイス

多様な安定相からの高機能材料創製

エグゼクティブサマリー

 本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が平成30年12月16日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ「多様な安定相からの高機能材料創製」に関するものである。

 再生可能エネルギーの大量導入、快適なモビリティ、IoT推進、環境負荷低減などの様々な社会ニーズを満足すべく、電池、半導体素子、磁石材料、熱電材料、高温耐熱材料などデバイス・材料の高機能化、高性能化、さらには従来にない新たな機能の発現が求められている。これらの要求に対し、元素の新たな組み合わせや多様な結晶構造の利用などにより、所望の機能・特性を実現する材料を創製する流れが顕著になっているが、このような材料系では多様な安定相が数多く出現するため、目的の相を得るためには精密な材料設計と作製プロセス制御が必要になってきている。一方、最近はマテリアルズ・インフォマティクス(MI)やハイスループット合成などの新しい研究手法の発展により、新たな材料を効率的に探索する試みも始まっている。これらの活用により応用分野を越えて、高機能材料の探索・設計、反応過程の設計、作製プロセスの精密制御が可能になれば、材料創製の新たな道が開かれるものと期待される。
 本ワークショップは、応用分野を横断する新機能・高機能な新規材料創製のための、多様な安定相からの高機能特性相の抽出を行う材料設計や、反応過程の把握と作製プロセスの精密制御に重要となる研究開発、これらを効率的に行うために必要な研究開発体制などについての指針を得ることを目的に開催した。
 「新たな機能を有する材料の検討・設計方法」に関する話題提供では、合成、計測、設計をハイスループットで回す手法、多様な安定相を活用した熱電変換材料、価数制御、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)について紹介された。「応用からの期待」では、化合物太陽電池と磁性材料、「望みの安定相を実現するための計測技術とプロセス制御技術」では、オペランド計測、半導体結晶相の制御、プロセス・インフォマティクス活用、ハイエントロピー・ナノ合金が紹介された。
 総合討論では、CRDSの新規機能性材料創出に関する問題意識と研究開発に関する仮説、および有識者からの話題提供を踏まえ、新たな安定相を探索・設計する共通の指針、新たな安定相を実現する作製プロセスの設計手法、効果的な研究開発のしくみについて議論し、研究開発および研究体制に関するいくつかの重要な方向性を得ることができた。
 このワークショップでの議論を踏まえ、CRDSでは今後国として重点的に推進すべき研究領域、具体的な研究開発課題を検討し、研究開発の推進方法を含めて戦略プロポーザルを策定し、関係府省や関連する産業界・学会等へ提案する予定である。