戦略プロポーザル
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Society 5.0 時代の安心・安全・信頼を支える 基盤ソフトウエア技術

エグゼクティブサマリー

 わが国が提唱するSociety 5.0が目指す社会は、人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すデータ駆動社会である。データ駆動社会では、デジタル時代の競争力の源泉である「データ」は、特定の国や企業が抱え込むのではなく、プライバシーやセキュリティー、知的財産などの安全を確保した上で、自由に流通することが必要である。本提案では、Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウエアの研究開発として、特に緊急性の高いセキュリティー、プライバシー、プラットフォームに関わる課題を解決するための研究開発戦略を提言する。
 セキュリティーに関しては、信頼できない計算環境でも安全に正しく動くソフトウエアを動作させる技術として、安全性指向コンピューターアーキテクチャー技術、信頼できる隔離実行環境の構築技術、および、エッジからクラウドまでの総合的なセキュリティーを実現するセキュアOS技術などが必要である。プライバシーに関しては、オープンなネットワーク上のデータは見られるという前提のもとで、秘密計算や分散認証技術によるデータの秘匿性を確保する技術が求められる。プラットフォームに関しては、システム全体をby-Designの観点で捉え、きめ細かいセキュリティー要件とプライバシー確保を担保した上で、データの流通と情報処理を可能とするための研究開発を提案する。
 研究開発の推進においては、基礎研究(理論)と応用研究(システム基盤)を同時に進める。理論では計算機科学が依って立つ数学領域の研究者との連携が必要であり、システム基盤においては、研究成果を実証する際のターゲットシステム環境が重要である。人材育成の観点から、研究者が経験と自信と達成感を感じるためには、現実に使われて社会に貢献するシステムであることが望ましい。わが国の大学・国研のもつ研究開発プラットフォームはその有力な候補である。プロジェクトの遂行では、異分野の研究者や産と学がアンダーワンルーフに集う研究体制を構築し、将来に向けた人材育成の礎とすることを提案する。
 本提案による研究開発を実施することで得られる科学技術上の効果として、まず、理論およびシステム基盤の研究者が連携して同じ課題に取り組むことで、Society 5.0時代のシステム基盤に資する基礎理論を構築することができる。次に、高度化・複雑化し続けるセキュリティー・プライバシー課題の解決に向けて、アーキテクチャーからOS、データベース、セキュリティー、言語の研究者が一丸となって取り組むことで、後追いでない根本的な解決方式を確立できる。さらに、国際連携強化である。今回のような課題の解決は一国の力だけでは難しい。海外の一流の研究者を招くこと、海外の研究機関との共同プロジェクトを運営すること、研究成果は論文だけでなくオープンソースソフトウエアとして発信することなど、国際連携の機会を多面的に設けることが、国際貢献そのものになり、ひいてはわが国の研究者の実力を向上させるものと考える。
 社会経済的効果としては、短期的には、プライバシー侵害やセキュリティー不安の軽減と、セキュリティー事象による直接的・間接的被害を減少させる。中長期的には、国内に向けては、デジタル革新・データ駆動によりさまざまな社会課題を解決し、より人間的で幸福な社会であるSociety 5.0の実現に本提案成果を繋げる。また、国際的には、ICT技術領域における新規ビジネスや社会的イノベーションの創出、標準化案の策定、人材育成等が推進され、SDGs達成に向けた科学技術イノベーション推進に貢献する。

※本文記載のURLは2021年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。