- 情報・システム
Society 5.0 システムソフトウエア
エグゼクティブサマリー
Society 5.0の社会システムは、これまで以上に大規模かつ統合的なものとなるが、既存クラウド基盤は、多大なエネルギーを消費するアーキテクチャーを採用しており環境的・経済的な面からは大きな課題がある。また、データを国の重要な資源として活用するためには、高度なセキュリティを、後追いでなく最初から考慮した基盤が必須である。ムーアの法則という経験則に彩られた時代の終焉が近い中、このような基盤的分野をハードのみで支えることは困難である。そのため、ハードに近い部分のソフトウエア(カーネル)部分の研究開発を推進し、①多様化するアーキテクチャーの違いを意識せず使用することが可能となる基盤技術や、②個人情報などの機微情報を用いて解析する際の高度なセキュリティ技術の構築、③ゼロカーボン化に貢献する情報システム技術等を同時実現するための、「次世代IT基盤ソフトウエアの開発」が急務である。
一方で、このような状況下、情報システムのオープン化、コモディティ化により、わが国の研究環境は基盤構築に関わる研究開発をする機会を喪失してしまい、研究者は基礎基盤研究より応用分野の研究に注力することが多い。また、基礎基盤研究に身をおく研究者も分散し、相互の連携も弱くなっている。しかし、上記①〜③を達成するためには、基盤技術の研究者同士、また基盤技術の研究者と応用分野の研究者が連携していくことが不可欠であり、そのような連携を可能とする大規模研究プラットフォームの構築が必要と考える。
以上のような背景を受け、CRDSでは、システムソフトウエアに関わる技術の俯瞰と、研究動向の現状・課題や今後の取り組みの方向性を把握するためにワークショップを開催した。
ワークショップは、文部科学省情報担当参事官付、情報処理学会、国立情報学研究所の共催をうけ、2020年6月24日に研究内容に関する議論(オンライン)、6月29日は研究成果の応用に関する議論(オンラインとオンサイトのハイブリッド)という形で実施した。全体のコーディネーターを国立情報学研究所の河原林先生と京大の岡部先生にお願いし、情報処理学会の五つの研究会(アーキテクチャー、OS、セキュリティ、データ保護、プログラミング言語)から推薦いただいた研究者を招へいした。
参加者は、ステアリングメンバー(文部科学省情報担当参事官、情報処理学会会長、国立情報学研究所長、副所長、京都大学教授、CRDS上席フェロー)、発表者としての研究者12名、ディスカッサントとしての研究者20名、文部科学省とJSTからの傍聴者30名で総勢約60名に及んだ。60名×5時間×2日という長大なワークショップの結果、「理論×システム基盤技術」で安心安全なSociety 5.0情報処理基盤を構築するという考え方が導出された。また、ワークショップで、参加者に研究開発提案を募集したところ10件の提案を得た。発表12件を含めて、研究動向の現状・課題、今後の方向性を把握するという当初の目的は十分達成できた有意義なワークショップだったと言える。
※本文記載のURLは2020年11月時点のものです(特記ある場合を除く)。