科学技術未来戦略ワークショップ報告書
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みんなの量子コンピューター ~情報・数理・電子工学と拓く新しい量子アプリ~

エグゼクティブサマリー

本ワークショップでは世界的に研究開発競争が進む量子コンピューターについて、そのコンピューター科学・電子工学としての側面に着目し、量子コンピューター開発の現状と課題・期待を議論した。また、コンピューター科学や電子工学分野の研究者・技術者が量子コンピューター研究開発に参入する際の障壁、今後10~20年で実現可能そうな小中規模の量子コンピューターに期待される用途、などの点についても幅広い観点から議論し、科学技術・推進方策の両面から課題を探った。

CRDSからは、(1)古典・量子ハイブリッドアルゴリズムの開発・実装・実証、(2)量子ソフトウェア開発環境の整備、(3)量子コンピューターアーキテクチャ設計、が重要な研究開発課題として挙げられる点を仮説として提示した。また、分野融合・企業参画・国際連携の促進が必須であり、そのための研究開発ネットワークとハブ拠点の設置が求められること、量子コンピューターコミュニティの醸成の視点が重要であること、量子コンピューターの裾野を広げる教育・訓練活動が研究開発と平行して必要であること、を推進方策として提示した。

ワークショップを通じ、コンピューター科学・電子工学と量子情報科学分野が協力して量子コンピューター開発に取り組むことの有効性・現実性が確認された。とりわけ、量子コンピューターをアクセラレーターとして認識する点や、エラー耐性量子コンピューターとNISQ量子コンピューターの構造上の大きな違いなどは、議論を通じて参加者の共通認識となった。コンピューターアーキテクトには、量子コンピューターのプログラミングモデルやアーキテクチャを俯瞰・整理する役割が強く期待された。

また、コンピューター科学・電子工学と、現状の量子情報科学の間には分野の壁は存在しているが、十分に乗り越え可能であるとの認識も深まった。ハードウェア開発側から見ると、逆に分野のオーバーラップが大きすぎる境界領域を区分けできないという指摘もあり、学際的な研究開発拠点の必要性は参加者で共有できたものの、具体的にどのような形で実現すると望ましいかは、さらなる議論が必要であった。

加えて、古典・量子アルゴリズムの開発は重要であるが、量子化学や機械学習など、これまで当該分野で蓄積されてきたドメイン知識と量子情報科学の考え方を上手に組み合わせることの重要性も明らかとなった。

これらの議論を踏まえ、CRDSでは今後国として重点的に推進すべき研究領域と具体的研究開発課題を検討し、研究開発の推進方法も含めて戦略プロポーザルを策定し、関係府省や関連する産業界・学界等に提案する予定である。

※本文記載のURLは2018年8月17日時点のものです。