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世界特許マップから見た量子技術2.0
エグゼクティブサマリー
近年、量子状態を精密制御し、量子もつれや量子干渉などの量子力学特有の性質を計測・通信・情報処理などに活かす「量子技術2.0」とも呼ばれる新技術の研究開発が世界中で活発化している。量子技術2.0の代表例は、量子センサ、量子通信、量子暗号、量子コンピュータ、量子シミュレータなどである。
米国、欧州、中国が量子技術2.0への政府研究開発投資を拡大する中、我が国においても2018年12月に内閣府が「今後イノベーションを進める上で重要な3つの分野」としてAI、バイオに並んで「光・量子」を挙げ、いよいよ量子技術への注力が始まった。基礎研究から社会実装まで様々なレベルでの国際競争が激化しており、我が国において量子技術2.0をどのように推進すべきかを判断する岐路に立たされている。
我が国の科学政策・産業政策の方向性を判断する上では、知財空間における技術体系の客観的・定量的な俯瞰と、それに基づく各国・出願人のポジション・得意不得意・年変化の把握と理解が欠かせない。本調査は、我が国の研究開発戦略の立案に資する基礎データとして、量子技術2.0に関連する特許をクラスタリング・マッピングによって俯瞰的に分析することで、政策的含意を得ようとするものである。
調査の結果、特許マップにおける各技術領域の相対的な位置関係から、「量子ビット共振器」や「量子回路・コンパイル」などが量子コンピュータと量子通信・量子暗号に共通する基盤的な技術概念として同定された。国別の時系列変化からは、中国における量子通信・量子暗号の特許公開の急激な伸びと、それとは対照的な日本での公開数の減少が確認された。また、出願人別の特許を特許マップにプロットすることで、それぞれの出願人の傾向を調査した。北米の企業を出願人とする米国での特許は、「量子コンピュータ」「量子ビット・ゲート」区分に分類される特許が多く、日本企業や中国の出願人による特許は「量子通信・量子暗号」区分が多数を占めるという傾向が見られた。
量子技術2.0の研究開発の発展は目覚ましく、産業界や政府からの大規模な研究開発投資は多くのブレークスルーを期待させる。量子コンピュータや量子センサが量子性を利用しない従来技術と比べ優れていることを確かめる「量子優位性」の実験実証は、それぞれの技術分野で重要なマイルストーンと認識されている。しかし、量子優位性が実証された後にも、実用化に至るまでにはまだ多くの技術的ブレークスルーや革新的アイディアが必要であり、量子技術2.0の研究開発に対する継続的なリソース投資を促すことが極めて重要である。本調査は、戦略的な研究開発投資の判断に必要となる量子技術2.0の進歩を追跡するツールの一つとして、特許マップとその調査・分析結果を提供するものである。