ワークショップ報告書
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CRDS/ATR Symposium on IT and New Humanity

エグゼクティブサマリー

 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)と株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)とのJoint Symposiumを開催した。本シンポジウムでは、欧州委員会共同研究センターからNicole Dewandre氏を招き、国内の人工知能研究者や法律家、CRDSの上席フェローと、科学技術と社会との関係において今後検討していくべき幾つかの論点について議論を深めるとともに、情報科学技術分野として日・米・欧の各拠点が連携して取り組みを進めていく方向性を探索することを目的としている。
 シンポジウムは三部構成になっている。第一部Trends and Implicationsでは、「新グローバルノルムに『東洋』は役に立てるのか」というタイトルで、われわれを取り巻くグローバル情勢が大きく変わろうとする中で、科学技術とヒューマニティーがどのよう関係するのかと問題提起した。次いで、「ロボットと未来社会」というテーマで、人と関わる人間型ロボットに支援されるロボット社会の実現について、10年後、100年後、1000年後までのロボット及び人間の存在に関わるような、まさにNew Humanityにふさわしい壮大な未来像を展開した。パネル・ディスカッションでは、ハンディキャップを持った人へのインプラントが発展すると人間と機械の区別がなくなるという意見、それでも人間は独自の人権をもつという対立する意見、ロボットに人権を与えるという議論、あるいは、アイデンティティーの在り方が、個人ではなく人や機械との関係性に依るものになるなど、古くからある心身二元論にまつわる議論の新しい展開が見られたのでないかとも考えられる。
 第二部IT Research Initiativesでは、まず欧州の活動として、欧州委員会が公表したONLIFEマニフェストと、その背景となる哲学者ハンナ・アーレントの思想について講演した。次に、日本の活動として、「Wisdom Computing / REALITY2.0」の構想を説明した。最後に、「Judicial concern about IT and New Humanity」と題し、EUのONLIFEマニフェストへの考察も含め、ITやAIの進歩に伴う法律的な懸念を、政治・労働・社会の視点で取り組むべき課題で述べた。
 第三部 New Humanity, Agenda for the Next Stepと題したパネル・ディスカッションでは、これまでの議論を受け、人間や人工知能はどう変わってゆくのか、それに対してわれわれはどうしていかなければいけないのかを議論した。会場からの意見も含めてさまざまな論点が挙げられた。研究者やエンジニアのナイーブな感性の問題、貧富や人種間の格差など社会の分断を助長あるいは修復するITの役割、人間機械化仮説とそれに対する「人間」は特別な存在として信頼すべきであるという議論、さらには人間がどう変わってゆくか、アイデンティティーはどうなるか、人間とは何かという、人間の本質に関わる根本的な議論が展開された。
 本シンポジウムは、同じ問題意識をもつ論者が同じような方向性にむけた結論を導くというようなものではないが、人工知能やロボットと人間とのかかわりに関する多様な視点からの論点や議論が展開できたと思う。その意味で、本テーマの広がりとさらなる議論の必要性が明らかになったのではないかと考えている。JST・CRDSとしても今後このような議論の機会を数多く持てるよう努力する所存である。