海外調査報告書
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競争力のある小国の科学技術動向

エグゼクティブサマリー

 近年、先進国が経済危機に直面し、また新興国の成長が著しい中、世界共通認識として、科学技術は国際競争力強化のための重要な原動力になると捉えられており、各国で様々な政策や取り組みが実施されている。
そのような中、複数の機関から毎年発表される国際競争力の世界ランキングは、各国が自国のポジションを確認する手段として参照・引用されており、ランキングの中には「イノベーション」に特化されたものもある。最近の世界イノベーションランキングで特に注目されるのは、人口一千万人以下の小国が上位に複数ランクされていることである。
 米国、英国、ドイツ、フランス等の欧州主要先進国、日本などより上位に位置するこれらの国々が、どの様な点でイノベーション先進国と考えられるのか、また、そのイノベーション力には科学技術による貢献がどの程度含まれるのかといった点を解明することは、科学技術イノベーション政策立案に関与する我々にとって興味深い。とりわけ、研究開発資金が国際的に見ても多く投資されながら、その成果が産業競争力などのイノベーション力に十分転嫁していないと言われる我が国の状況を鑑みれば、イノベーションランキングで上位を占める国々の調査分析を行うことは、我が国の状況を変革していくための重要な示唆を与えてくれる可能性がある。
 今回は、人口一千万以下で、各種のランキングで上位に位置する次の国・地域に絞って調査分析を実施した。
 ○スイス
 ○フィンランド
 ○アイルランド
 ○シンガポール
 ○台湾(地域)
 まず、当該国・地域の大まかな状況を調査し、その上で科学技術イノベーションの向上に資する歴史的・社会的背景について分析した。つづいて、各種イノベーションランキングで当該国・地域がどのような内容で優れているとの評価となっているかを分析した。
 このイノベーションランキングでの結果を念頭に置いて、研究開発投資、人材数などの科学技術インプット及び論文、特許などの科学技術アウトプットの状況を調査して、イノベーション力における科学技術の寄与度について分析した。当然のことながら、高いイノベーション力が科学技術と直接的にリンクしていない場合もありうるが、その場合にはその理由についても考察した。
 各種ランキングで高いイノベーション力があると評価されているのは、それぞれに競争力のある企業や業種のあることが理由と考えられるため、これらのいわば成功事例を取り上げ、歴史的・社会的な背景、政策的な意味づけ、科学技術との関連などを分析し、最後に、我が国の科学技術イノベーション政策への示唆について考察した。