- 情報・システム
組織における知識創造支援に関する理論と技術の構築
エグゼクティブサマリー
社会が工業化、情報化の時代を経て、知識基盤社会へとシフトしつつある。知識基盤社会では、高度な価値がモノや情報よりも「知識」に認められ、価値ある知識の生産・活用が競争力の源泉となる。こうした知識基盤社会へ向けた科学技術のあり方を検討し、2008年2月に戦略イニシアティブ「知識を生産・活用するための科学構築への挑戦」において、人文科学と情報科学、認知科学の融合した新しい科学の構築を提案した。
本戦略プログラムでは、その具体化のため、イノベーションの源泉ともいうべき新しい知識を組織として生み出すことに焦点をあて、組織における知識創造支援に関する理論と技術を体系的に構築するための、具体的研究開発課題と研究開発の推進方法を提案する。
具体的研究開発課題としては、観察と分析、モデル化と評価、場の設計と運用、支援技術などに関する課題が挙げられる。例えば、観察と分析では、カメラ画像による会議中の参加者の行動分析といった課題、モデル化では、知識共有プロセスのモデル化や知識創造プロセスの個人モデルと組織モデルの関係性のモデル化といった課題、場の設計では、創造性を刺激するオフィスデザインのあり方といった課題、支援技術では、直感的に理解や操作が可能な感覚的入出力支援、気づきの支援、メタ認知的言語化の支援、協調学習による知識の共有化支援といった課題がある。
いくつかの現場を想定し、情報科学の研究者、認知科学の研究者、経営学の研究者などからなる混成チームを現場毎に構成し、そこにITツールや手法、理論を持ち寄り実際の現場で適用しつつ研究開発を推進する。また、統括チームを設け、各チームに共通する課題の検討や体系化の議論を実施する。また、本格的研究プログラムを実施する前段階として、研究者コミュニティの醸成を図るべくワークショップやフィージビリティスタディを実施する。
組織における知識創造という知識基盤社会での中核的活動を求心力にして、情報工学、統計数理科学、経営学、心理学、認知科学、教育学等の分野の融合を進めることで世界に先駆けて知識の科学の構築を先導し、日本発の理論体系を発信し、この分野で世界のリーダーシップを発揮するとともに、科学の発展に貢献する。上記戦略イニシアティブで提案した「知識を生産・活用するための科学を構築する」という大きな目標に向かって研究者を結束させる明確なディシプリンはまだ存在しない。ディシプリンが存在しない目標への挑戦は、個別具体的な課題を設定し、未踏の分野を切り拓かんとする研究者の知識と志を結集する試行錯誤を繰り返す以外に手だては無い。本戦略プログラムは、その第一歩を踏み出すことを具体的に提案するものである。