津波災害総合シナリオ・シミュレータを活用した津波防災啓発活動の全国拠点整備

イラスト:困っている人防潮堤などのハード対策や、警戒システムなど早期情報提供のシステム整備は進んでいるが、それだけでは被害を防ぎきれない。住民の適切な避難行動が不可欠。


図:知の組み合わせ(自然科学(災害社会工学・水理学)×人文・社会科学(防災教育・リスクコミュニケーション)×現場知(自治体・教育委員会・小中学校))

背景

津波災害への対策として、防潮堤などのハード施設の整備や、警戒システムなど住民へ早期に情報提供するシステムの整備が進められてきたが、これらインフラ整備だけで津波被害を防ぎきることは難しく、津波災害時における住民の迅速かつ的確な避難行動が不可欠である。

しかし、住民調査の結果によると、地震直後の住民はハード対策への過度の依存から、発生する津波や被害を軽く見積もり、警報や避難勧告が発せられた場合でも避難を行わない、あるいは、行政からの情報伝達に過度に依存し情報が発せられるまで避難しない、といった行動を取る傾向が強く見られることが分かっており、想定外の大津波の際に多くの犠牲者を出す可能性が問題となっている。

研究開発のアプローチ

そこで、本プロジェクトでは、住民がハード対策や行政からの情報伝達に過度に依存せず、災害の知識を身につけシミュレータ等のシステムを適切に活用しつつ、迅速かつ的確な避難行動をとるために、災害社会工学や水理学等の自然科学と教育学等の人文・社会科学、さらに自治体や小中学校等の現場との協働による研究開発を実施した。

成果

災害社会工学・水理学の知見を活用し、予測される津波の様子や被害範囲を発生からの時間経過に合わせて地図上の動画でリアルにシミュレーションできる「動くハザードマップ」を開発した。本ハザードマップを活用して災害の様子をイメージしながらその後に生じる被害や避難を自ら考え自助を促す防災教育を、複数の自治体や小中学校と連携して取り組んだ。防災教育活動を実施した自治体の1つである釜石市は2011年の東日本大震災で大きな被害を受けたが、本プロジェクトの実施期間を含む計8年間にわたり本取り組みを活用した防災訓練を重ねてきた市内14校の小中学校においては、災害状況を見て自ら判断し行動に移したことで約3,000人のうち99.8%の子どもが生き延びた。この事例は「釜石の奇跡」として注目され、全国的に関心が高まった。また、東日本大震災以降、釜石市の事例を契機として、自治体の指導のみならず市民の自主的活動としてハザードマップ作りが全国的に実施された。

本研究の成果は津波被害に限らず、河川氾濫、高潮、ため池決壊など、さまざまな自然災害を対象に、全国各地の自治体(三重県、徳島県、新潟県、沖縄県、愛知県、和歌山県、北海道等)で実装が進展している。

実装支援【公募型】 ロゴマーク 研究開発成果実装支援プログラム【公募型】
※本プログラムにおける成果実装予算規模(直接経費):1プロジェクト 5百万円から1千万円以内/年
プロジェクト実施期間:2008年4月~2012年3月



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