分散型水管理を通した、風かおり、緑かがやく、あまみず社会の構築

イラスト:困っている人 上下水道、河川、ため池など用途ごとに最適化され縦割りで管理されている現在の水管理システムは、豪雨や洪水、渇水などの水害リスクへの総合的な対応が困難。


知の組み合わせ(自然科学(河川工学・水理学・防災学)×人文・社会科学(社会学・環境教育学・人文地理学・地域研究)×現場(多世代の地域住民・地域団体))

  • 図:現在の下水道システム(福岡市:分流式下水道)
    現在の下水道システム(福岡市:分流式下水道)
    すべての水は地下に潜り、雨水は雨水管へ集められる。生活者は、水の循環を意識しない。
  • 図:あまみず社会
    あまみず社会
    雨水は貯留や浸透させ、一挙に地下・川に入れない分散型の水管理。水と緑による有機的な社会。

背景

上水道、下水道、河川、ため池や農業用水など用途ごとに最適化され縦割りで管理されている現在の水管理システムは、豪雨や洪水、渇水などの水害リスクへの総合的な対応に困難が伴う。特に都市部においては、都市化の進展によりアスファルト等の舗装面積が拡大したことで雨水が地下に浸透せず、集中豪雨の際などに多量の雨水が一挙に下水道管に流れ込むことによる浸水被害等が社会問題になっている。流域の様々な場所で雨水を貯留・浸透させる分散型水管理システムを、現在の水管理システムのサブシステムとして導入し下水道管への流水量を調整することが、この問題の有力な解決手段となり得る。しかしながら、流域の様々な場所での水管理には、地域住民も含めた多様なステークホルダーの協力が必要となるが、地下に設置されている水道設備は生活者の目に見えないため、人々の関心が向かず、社会全体としても水管理の問題が顕在化しにくい環境となっている。

研究開発のアプローチ

本プロジェクトでは、現状の水管理システムの課題や新たな分散型水管理システムの効果を河川工学などの自然科学と、社会学などの人文・社会科学の観点から科学的な手段で可視化することにより、地域住民を含めたステークホルダーの関与を促しながら当該システムを構成する要素技術の開発及び社会実装に向けた研究開発を実施した。

成果

都市中心部を流れ、近年水害が多発している福岡市の樋井川流域を主な対象地とし、「都市域の全ての場所のあまみずを、多くの人々の関わりにより貯留・浸透・活用し、あまみずを一挙に地下に入れない分散型の水管理システムを、現在の水管理システムのサブシステムとして都市に配置する」という都市ビジョンを提案した。この都市ビジョンを実現するために、流域住民・学生・地域団体・建築/土木系の専門技術者、行政機関など多くのステークホルダーの協力を得ながら、貯留タンク・土地改良技術などのパーツ技術及び敷地のデザイン技術の開発・地域実証をし、それらの治水効果、水質改善効果、緊急用水効果などの定量的な分析を行うことで、都市ビジョンの有効性を可視化した。また、社会学・環境教育学・人文地理学・地域研究の知見も活用して、防災面のみならず、地域の生態系保全や庭づくりの楽しみ、伝統的な水の使い方や伝統美など文化的価値の創出、コミュニティの活性化に対する効果も明らかにした。このような有効性を可視化し提示することで地域社会の受容を高めビジョンの実装が達成された。これら樋井川流域を対象とした一連の取組は、ビジョン達成に向けた地域住民の巻き込みのモデルとして東京都の善福寺川流域など国内の他地域にも展開された。

多世代共創 ロゴマーク 「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域
※本領域における研究開発予算規模(直接経費):1プロジェクト 数百万円~3千万円以下/年
プロジェクト実施期間:2015年10月~2020年3月



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