2024年(令和6年)11月22日(金)
形式:オンライン
最先端の基盤技術に関するELSIとは ~サイエンスコミュニケーションの意義と課題~
第2回WSは、山西プロジェクトのメンバーや「ゲノム倫理」研究会メンバーに対して、10月下旬に実施した第1回市民WSを通じて得られた示唆を共有し、市民に対して提示すべき研究内容やELSI論点、その伝え方などについて様々な観点から議論を実施しました。
まず、事務局より第1回市民WSから得られた意見を7つに大別し報告いたしました。全ての意見に通底する重要な点として、市民が意見を出すためには研究内容を社会実装する際の具体的な応用例を提示することが求められている、という点が挙げられました。とりわけ、ELSIの議論においては「その研究が自分にどのように関わってくるのか」がある程度想定できることが大前提になってくるのではないか、といった意見が紹介されました。
山西先生からは、様々なバックグラウンドの方々から率直な意見を抽出していただいたのは初めてのことで、非常に有難い、というご意見をいただきました。
その背景として、今年度「ゲノム倫理」研究会のテーマとしている山西プロジェクトが基盤技術の研究開発であり市民が具体的に触れる実用化事例を現時点で特定することは困難であること、及び、山西教授の専門である機械工学という学問の性質、デバイス開発がCREST全体の研究プロジェクトの一部であること等々が確認されました。
そのような難しさの中で、ディスカッションでは、市民の理解を得て、議論を促進する具体的な方法について様々なアイデアが議論されました。
先ず、「我々が生きる現在は昔の技術の恩恵を受けて出来ている」ことを知ることが、未来の話に想像を巡らすきっかけになるのではないかという意見がありました。携帯が生まれる前後やZoom前後でどのように世界が変化したのかを脳裏においたうえで、バイオ領域の新技術が生まれたときにどうなるかを考えていくことがあり得るのではないか。そのような一つ補助線を設けることで未来を議論しやすくするアイデアです。
次に、(上の議論の「補助線」の一例でもありますが)情報通信分野など市民が理解しやすいテクノロジー領域のアナロジーを用いて説明するアイデアが出されました。山西プロジェクトにおいて、これまで細胞への導入が難しかった長鎖DNAを細胞内に導入できるような技術を開発することで、細胞内へ伝達できる情報量が格段に増えることになります。インターネットの世界では誤った情報を訂正することは比較的容易ですが、遺伝子情報の導入(操作)は元に戻せるのかといった議論が生まれました。
また、市民に対して、極端な応用可能性を考える二つの全く対立する立場を提示し、どちらの立場が自身の考えに近いだろうかと想像してもらうことで議論を活発化していく手法もあり得るとの意見がありました。そこでは、技術の安全性や善悪といった議論よりも、その技術が社会に普及することで生じ得る社会的不平等などを中心的な論点としていく方が市民は議論しやすくなるとの考え方が示されました。
そもそも市民WSや多分野の研究者を含めたELSIの議論の前提として、本研究プロジェクトが対象とする長鎖DNAの導入・機能発現について、現在人類が知見を持っていないこと、そうであるからこそ、先ずはそれを人類として理解していく研究が必要であることの共通認識を創っていくことが重要ではないか、という意見もありました。「人類が分かっていないことを分かるために研究している」という現況現場の率直な認識を多くの人に伝えていく必要性があるとの研究当時者側の意見でした。
また、WSの中では研究会メンバーが考えた山西PJのELSI論点案の説明がありました。
新たな生物を創り出す可能性、想定外の生物が生まれる可能性を考えたとき、人間の操作できない領域を作るべきではないか。また、生命に対する尊厳としての細胞への操作はどの程度まで許容されるのか。技術のレディネス別に多段階な論点が存在するのではないか。ヒト細胞への動物染色体の導入に対する嫌悪感、ヒト細胞の動物化、動物細胞のヒト化、新たな動物種出現の可能性、などの論点案が参加者に提示されました。
最後に、サイエンスコミュニケーターの役割に対する期待、基礎技術を開発する研究者とその応用を考える人との役割の区別等について議論がなされました。さらに、研究成果が社会に実装されていくことで必然的に新しい文化が生まれるため、どのような文化が作られるのか、われわれは作っていくのかを考えるのも新しい学問の領域ではないか、との締めくくりで議論を終えました。
今回の議論を踏まえ、12月中旬に、前回の市民WS参加者の一部を対象とする第2回市民WSが開催されます。市民の方々との更なる対話を通じて、ELSIの議論・検討のあり方を探るとともに、山西PJのELSI論点を抽出し、継続的に学びを深めていきます。
WS参加者
<山西チーム>
山西 陽子 九州大学大学院工学研究院 教授
菅野 茂夫 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 主任研究員
田川 美穂 名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授
坪内 知美 自然科学研究機構基礎生物学研究所 幹細胞生物学研究室 准教授
鶴屋 奈央 九州大学工学研究院 学術研究員
鈴木 隼人 産業技術総合研究所 生命工学領域 生物プロセス研究部門 研究員
<CREST「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」研究総括>
塩見 春彦 慶応義塾大学医学部 教授
<「ゲノム倫理」研究会>
信原 幸弘 東京大学 大学院総合文化研究科 名誉教授
四ノ宮成祥 防衛医科大学校 前学校長/国立感染症研究所 客員研究員
志村 彰洋 株式会社電通第7マーケティング局 ゼネラルマネージャー
田川 陽一 東京科学大学 生命理工院 准教授
田中 幹人 早稲田大学 政治経済学術院 教授
中村 崇裕 九州大学 大学院農学研究院 教授
見上 公一 慶應義塾大学 理工学部 准教授
三成 寿作 京都大学 iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門 特定准教授
<JST>
RISTEX 「ゲノム倫理」研究会事務局
戦略研究推進部
<株式会社日本総合研究所>