平成16年度採択
生活者の視点に立った科学知の編集と実践的活
上田 昌文(特定非営利活動法人 市民科学研究室 代表)
本研究では、科学知や先端技術との関わりにみる、生活者の「知ること」「主体として判断し選択すること」「状況を変えること」といった位相に着目し、こうした位相に応じた、知へのアクセス、知の編集、技術に対する評価、知を活用した生活変革など様々な「生活者が科学技術に向き合うこと」のスペクトルについて、その内容や相互の連関性を把握して概念として整理します。また、それにもとづいて、生活者と科学技術との関わりの質的改善のための具体的な実践方法を開発し、支援のためのシステム構築を目指します。
環境創造型農業を実現するための社会システムの研究開発
谷口 吉光(秋田県立大学 地域共同研究センター 教授)
本研究は、秋田県大潟村を事例に、農業者による地域農業環境の管理・改善を可能にする社会技術・システム(「環境創造型農業システム」)を研究・開発することを目的とします。圃場ブロック実験、圃場データベースに基づくPDCA実験、情報システムの構築、農業技術の社会経済的評価手法などの研究を通じて、環境に配慮した農業を地域全体に広めるための社会技術を開発することを目指します。本研究の成果が環境創造型農業プロトタイプとして全国に普及することが期待されます。
Ethics Crossroadsの形成と科学技術倫理の構築
札野 順(金沢工業大学 科学技術応用倫理研究所 所長)
本研究では、社会的セクター、学術領域、文化圏を越えて、科学技術倫理を具体的かつ多角的に検討するための場、即ち、Ethics Crossroadsを形成することを目指します。この場のシナジー効果を活用して、日本・アジアの価値観を反映した「国際的に通用する」科学技術倫理綱領のモデルを構築します。さらに、その成果を教育に還元する「教育課程を通じた行う倫理教育(ethics across the curriculum)」プログラムを設計・開発し、これを実践した上でその効果を測定・評価する方法を検討します。加えて、社会技術としての科学技術倫理を、大学や企業などで主体的に研究・教育できる人材を育成します。
輸入依存型社会における安全な物流の構築
渡邉 豊(東京海洋大学 海洋工学部 教授)
現在の日本は、衣食住を海外からの輸入に依存する大量消費型の国となりました。その結果、外国から危険な状態で輸入されてくるコンテナ貨物も急増し、最近では、一般市民を巻き添えにする死傷事故も後を絶たなくなっています。そこで、本研究では、輸入コンテナに対する危険認知能力の優れたトラックドライバーや港湾労働者の持つ、直感的な危険察知や回避のノウハウを科学的に分析して数量モデル化し、最先端認知技術とITを組み合わせる新技術システムを構築します。さらに、この技術を用いた教育研修や現場での社会実験によって、物流現場の草の根から安全レベルを高めてゆこうとするものです。
平成15年度採択
油流出事故の危機管理システムに対する研究
後藤 真太郎(立正大学 地球環境科学部 教授)
本研究は、ナホトカ重油事故の教訓を基に、サハリン沖エネルギー開発における油流出対策の現状を分析し、日本の油汚染防除体制における危機管理システムの不備を明らかにする事を目的としています。このため、改善を阻害している根本要因を明らかにし、法律改正を含め適切な流出油防除体制を提案し、欧米・韓国並みの防除体制を実現するための社会システムを提案します。
本研究では、北海道オホーツク海沿岸部の流出油防除計画が構築され、関係地域への社会的貢献が期待されます。
言語間デジタルデバイドの解消を目指した言語天文台の創設
三上 喜貴(長岡技術科学大学 経営情報系 教授)
地球上には6000以上の言語があり、デジタルネットワーク上で不自由なく利用できる言語は一部に過ぎません。こうした「言語間デジタルデバイド」解消を目指して、ネットワーク上の多様な言語活動を継続的に観測する「言語天文台」を創設します。
具体的には、デジタルな言語表現の基礎となる文字コードに着目し、WWW上のテキストを自動的に収集、判別して言語別活動量を推定するとともに、蓄積した関連基礎データを内外に提供します。また、UNESCO等と連携し、全ての言語・文字にアクセス機会を拡大するための方策を提言します。
医薬品安全性情報コミュニティの構築にむけて
山内 あい子(徳島大学 大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 助教授)
本研究では、ネット上の知的共有基盤を通じて医療消費者・医療従事者・創薬研究者の間で医薬品安全性情報が効果的に循環する社会システムとして、医薬品安全性情報コミュニティの構築を目指します。
薬物催奇形性情報ネットワークの人的基盤とインフォマティクス基盤の整備による情報の成長は、根拠に基づく医療の実践と効率的な医薬品研究開発、及びリスクコミュニケーションに寄与する情報医療薬学分野の人材養成に貢献します。
平成14年度採択
新規環境・技術リスクへの社会的ガバナンスの国際比較
池田 三郎(独立行政法人 防災科学技術研究所 総合防災研究部門客員 研究員)
20世紀末に新たに出現した環境・技術リスク問題の中で、特にわが国のこれまでの社会的なリスク対応が遅れている分野を取り上げて、国際的な視点からリスクマネージメントの事例や政策分析を行い、リスクの社会的なガバナンスに向けたリスク管理政策の課題とその改善への提言をまとめます。
具体的には、1.食品安全リスク 2.電磁波の健康リスク等を取り上げ、国際的な研究団体(IRGC、SRAなど)と協調して、社会的なガバナンスの評価枠組みを構築し、両課題の国際比較分析を行うことにより、社会的リスク対応への共通のプラットフォームとして、新規の技術・環境リスク問題のクリアリングハウス機能を持つ、リスクの早期警戒と事前対応支援システムの概念設計を目指します。
エネルギー技術導入の社会意思決定プロセス
鈴木 達治郎((財)電力中央研究所経済社会研究所 上席研究員、慶應義塾大学 大学院 教授(兼務))
エネルギー技術の導入段階に関する意思決定は、その後の社会との関係を決定づける重要な社会課題です。しかし、これまでは限られたアクター間のみで意思決定がなされてきたため、今日多くの問題が提起し、その限界が見られるようになってきました。そこで地方自治体、NGO、専門家などでは新たな意思決定プロセスの模索が始まっています。
本研究では、公共性の高いエネルギー技術導入における新しい社会意思決定プロセスに焦点を当て、現実の事例研究をベースに、アクター間の相互作用、決定の評価軸、決定プロセスの変化などを総合的に分析し、望ましい意思決定のあり方について提言を行います。
医療事故防止に対する製造業安全手法の適用研究
野口 博司(九州大学 大学院 工学研究院 助教授)
本研究では、大学病院の医療安全対策に、製造業設計部門の安全(品質)問題未然防止手法を適用することにより、医療安全管理手法を構築するとともに、その共通部分の背景を解析し、より広い分野に適用できる安全学の構築を行います。
具体的には、トヨタ式未然防止手法や欧・米・日の医療リスクマネージメント比較研究に基づいて、大学病院の看護職、技術職、医師に対する安全問題未然防止システムの構築とその有効性の検討を行い、医療安全ビジネス(安全支援システム、教育システム)モデルの提案を行うとともに、製造業設計品質問題未然防止システムへのフィードバックを行い、安全学の構築に向けた提案を目指します。
平成13年度採択
自動化された社会的システムに生じるカオス(危機)とその制御
清水 博(金沢工業大学場の研究所 所長)
本研究では、効率向上のため自動化の進んだ社会的システムの中で、個人の共同体意識の低下などにより人為的危機が発生することに対し、人間の身体性と心の働きに対応したコミュニケーション論と共存在社会のシステム論を世界で初めて考案します。
具体的には、人々(役者)の身体の働きをサポートすることによって、人々が場(舞台)を共有し、その中に自分の働きを位置づけることを可能にし、調和的な共同作業を容易にします。このために共存在的な社会システムの原理と制御論を創造する必要があります。この方法により、さまざまな舞台(場)にて、人間の心の無限定な変化から生まれる危機の発生を減らす新しい場の技術(共存在技術)を提案し、その活用を目指します。
地球温暖化問題に対する社会技術的アプローチ
竹内 啓(明治学院大学 国際学部 教授)
CO2排出による地球温暖化の問題は、その自然科学的知見および予測の不確実性、影響の長期性と多面性、利用できる技術の多様性などにより、まさに社会技術的対応を必要とする重要な課題であります。そこで本研究では、事実確認にもとづき、次の論点について技術的、政策的可能性を展望し、具体的な提案と社会技術的アプローチのモデルを提示します。
- 温暖化問題に関する研究の現状の検討
- 気候変動の地域ごとの予測、特に日本についての検討
- 温暖化の自然的影響、特に生態系及び人間健康への影響
- 温暖化の社会的影響、産業、社会施設への影響
- 国際的協調および対立の可能性の展望
公共技術のガバナンス:社会技術理論体系の構築にむけて
藤垣 裕子(東京大学 大学院 総合文化研究科 助教授)
本研究では、科学技術の社会的ガバナンスについて、理論的知見の蓄積と共有を図ることを目的としています。
具体的には、課題ごとに個別に論じられ、相互に枠組みを共有できていない現状に鑑み、基盤的知識の共有を図るための事例分析、共通枠組みとコンセプトの抽出、ハンドブックの編纂を行い、これらを通して、「社会技術」概念への問い直し、公共に役立つ科学的知識産出のための「評価」機構再考、「科学技術と社会」教育の基盤整備への貢献が期待されます。
開かれた科学技術政策形成支援システムの開発
若松 征男(東京電機大学 理工学部 教授)
本研究では、広く社会に開かれた様々な意見形成/調整/助言・勧告システム(包括的に「パネル」制度と呼ぶ)を、わが国の科学技術政策形成に導入する上での、課題と展望を示すことを目的としています。
具体的には、先行する海外の制度事例や国内で個別に展開している類似事例の分析を基礎に、システム設計を行い、政策の社会的形成を支援する具体的ツール(社会技術)を提起することを目指しています。
- 記載内容は研究実施当時のものであり、その後の進捗や他の研究により導出される結論が変わることもあります。