- 情報・システム
2025年3月
CRDS-FY2024-WR-09
数理科学
エグゼクティブサマリー
本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)究開発戦略センター(CRDS)が2024年12月11日に開催した俯瞰ワークショップ「数理科学」の内容をまとめたものである。
数理科学に関する応用研究や産学連携での共同研究において、未活用の現代数学を活用するためには数学者の協力、共感が不可欠である。そのような共感を醸成するためには、その活動が魅力的なものであるということや、思いがけない形でさまざまな数学が将来求められることになる可能性についても示唆していくことが重要であると考えている。同時に、応用に資するような数学そのものの発展も重要である。そのため、数理科学の現状を俯瞰しつつ、数学的観点から全体を俯瞰することが必要であると考え、本ワークショップでは7件の話題提供とパネル討論を実施した。
本ワークショップでは、まず、有識者5名から、数学5分野(確率論、離散数学、代数、幾何、解析)のそれぞれについて、現在の研究、注目される技術について話題提供があった。さらに有識者2名からそれぞれ日本数学会の役割と応用研究について話題提供があり、最後にディスカッサント2名を加えてパネル討論を行い、以下のような議論を行った。
- 応用数学と数学の連携
「数学者が応用現場で何が重要であり、何が問題かという意識を直接体験できる場は日本ではそれほど多くない」という指摘があった。そのような場を即座に作れないとするならば、さまざまなところで小さいスケールからやり始めないといけないとのことである。また、日本における応用数学と数学の連携を改善する、人的交流を含め垣根を取り払う策として、若手研究者レベルで世界の若手研究者と交流する機会を増やすことが挙げられた。具体的な想定はHeidelberg Laureate Forumである。 - 俯瞰報告書に加えた方が良い数学的内容
具体的な内容として「統計そのものや確率論と統計の間をつなぐ内容」や「量子計算など、確率論的なアルゴリズム」、「量子計算の基礎付けを明確に押さえる数理物理的な部分」、「実際の応用を想定した局所的な微分幾何」が挙げられた。加えて、数学内の分野間における断絶している状況から、具体的ではないが、「まさに数学の分野それぞれが融合するからこそ生まれる新しい理論」が必要であるとの指摘があった。 - キーワードになりうる、注目動向
「数理臨床医学」がキーワードとしてあげられ、また、(規模においてなど)ラボラトリーでできない実験(気候、気象、経済、社会科学関係など)に数学が入る余地があるとの指摘があった。 - その他の課題(産学連携など)
その他としては、「数学が難しくなり過ぎていて、数学内の隣の分野が分からないため、談話会などを運営の仕方を含めて増やす必要があること」、「若手研究者にとっては、例えば3年経った後の業績評価でさらにプラス5年など、もう少し安心して自分の研究に集中できるポジションを与えるようなファンディングが必要であること」、「日本において、数理科学の研究者が数学を武器として食べていけるポジション自身を増やしていくことが必要であること」、「応用研究において数学のコアになるような研究を行うには、実際に形になる成果までには7~8年間、評価を受けられるレベルには10年程度のファンディングでないと難しいこと」などの課題が挙げられた。
JST CRDSは、科学技術に求められる社会的・経済的なニーズを踏まえて、科学技術の現状を俯瞰し、国として重点的に推進すべき研究領域や課題、その推進方策に関する提言を行っている。本ワークショップで得られた数理科学分野の取り組み状況や考え方、今後の方向性・課題認識などを、調査・提言活動に反映していく。
※本報告書の参考文献としてインターネット上の情報が掲載されている場合、当該情報はURLに併記された日付または本報告書の発行日の1ヶ月前に入手しているものです。