- バイオ・ライフ・ヘルスケア
健康・医療リアルワールドデータ利活用基盤の構築と生成AIへの展開
エグゼクティブサマリー
本戦略プロポーザルは、わが国における健康・医療RWD(リアルワールドデータ)の収集、流通を円滑に行い、健康・医療RWDに基づいた知の創出とその活用を加速する健康・医療RWD利活用基盤の構築を目指すものである。さらに、知の創出と活用における最重要課題として、医療版LLM(大規模言語モデル)/基盤モデルと診療支援ツールの研究開発戦略を提案する。
わが国は世界一の長寿国であり高い健康水準を実現しているが、それを支えているのは国民皆保険制度をはじめとした医療・ヘルスケアシステムである。一方、臨床現場の疲弊、硬直的な医療資源の配置、個別化医療の研究開発と創薬の遅れ、医療情報産業の停滞などの危機的状況が新型コロナ禍で顕在化した。増大を続ける国民医療費は令和3年度には45兆円を超え、わが国の医療・ヘルスケアシステムの持続可能性、ひいては将来的な国民の健康水準の維持が危ぶまれている。この状況に陥った要因の1つに、健康・医療RWD利活用基盤の不備がある。わが国における健康・医療RWDに関する主な問題は、健康・医療RWDの①収集システムの不備、②流通システムの不備、③解析による知の創出とその活用の遅れ、である。特に③について、海外ではLLMをはじめとした生成AIが医療・ヘルスケア分野においても急速に実装されつつある。わが国が医療・ヘルスケア分野に生成AIを活用する際、海外で開発されたLLMや基盤モデルに依存すると、経済安全保障上のリスクや個人の医療情報流出などの懸念があるため、国内での医療版LLM/基盤モデルの開発が喫緊の課題である。
それらの開発に必要となる大規模な健康・医療RWDを蓄積するには、まずは①②の問題解決が不可欠である。
以上に鑑み、本戦略プロポーザルではわが国が取り組むべき3つの提案を行う。
- 【提案①】健康・医療RWD収集を加速する技術の開発
- 【提案②】一次利用と二次利用を前提とした健康・医療RWD流通の仕組みや制度の整備
- 【提案③】医療版基盤モデルの開発および社会実装のための法規制の整備
以上の提案全体を実現するために、医療版LLM/基盤モデルの開発や社会実装の難易度に基づいたマイルストーンの設定、およびその実現に向けた各提案の推進テーマと時間軸の設計が必要である。推進方法としては、【提案①】~【提案③】のそれぞれについて、アカデミアを中心に関連する府省や企業が一体となり、内閣府SIP「統合型ヘルスケアシステムの構築」や医療DXなど関連する既存事業とも連携した体制を構築することを提案する。健康・医療RWDの利活用促進に対する社会受容・社会との協働に向けては、【提案①】~【提案③】により解決すべき問題と合わせて実現を目指す効果を訴求することにより、健康・医療RWDの提供元かつ利活用の最大の受益者となる個人・市民、および収集・提供の窓口となる医療従事者の理解醸成を図ることが望ましい。
上記の健康・医療RWD利活用基盤は、わが国の医療関連産業の発展、医療制度・提供体制の改善や診療の高度化、ヒトを対象としたデータ駆動型医学研究の加速に不可欠である。特に、言語と画像を組み合わせるマルチモーダルな医療版基盤モデルは、わが国における画像診断機器開発での強みを生かしうる。本プロポーザルの実行を通じて、わが国の医療における蓄積を活用しながら、医療・ヘルスケアシステムの持続可能性を高め、ひいては国民の健康に寄与することが期待される。
※本文記載のURLは2024年1月時点のものです(特記ある場合を除く)。