俯瞰ワークショップ報告書
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ライフサイエンスとナノテク・材料の融合が拓く新領域

エグゼクティブサマリー

次世代シーケンサーやmRNAワクチン、リキッドバイオプシーなど、医療やバイオエコノミーに変革をもたらす数多くのイノベーションが近年登場しているが、このようなイノベーションの根底にはライフサイエンス・医学研究により得られた知見とナノテク・材料技術との融合により生み出された新たな材料・デバイスや計測技術、操作・制御技術が存在している。
本ワークショップは、こうした状況を踏まえ、今後もライフサイエンスとナノテク・材料技術の融合領域よりイノベーションの源泉となりうる新たなシーズが生まれてくることを期待して、CRDSライフサイエンス・臨床医学ユニットとナノテクノロジー・材料ユニットが共同で企画したものである。

当日は、2つの基調講演「ナノバイオデバイス、AI、量子技術が拓く未来医療」、「細胞内分解ダイナミクス」を実施するとともに、ライフサイエンスとナノテク・材料技術の融合により創出が期待されるシーズを大きく3種類に分け、それに対応する形で「生体分子・生体環境の計測技術」「細胞・組織等の操作・制御技術」「人工分子システムのデザイン・創製」の3つのセッションを設定し、それぞれの融合領域第一線で活躍する研究者による話題提供と議論がおこなわれた。

総合討論の概要は、以下のとおりである。
・計測技術に関する研究開発の方向性として、非蛍光での高感度・一分子計測技術や多項目・多次元の計測技術が挙げられ、一分子計測や多次元計測に伴う膨大なデータの取得・処理も課題として指摘された。
・合成生物学は基礎、応用科学の両面でこれから極めて重要であること、また、日本にはナノ材料、有機化学・超分子などに蓄積があり、これらの関連分野が融合することで、合成生物学において強みを発揮できる可能性が指摘された。
・応用に向けた方向性として、今回のワークショップの発表で主に想定されていた基礎生命科学での活用と医療への応用については、昨今の潮流や課題が示された。一方、植物・農業への応用を想定した事例は今回のワークショップでは限られたが、世界で見た時の産業規模・問題の大きさから、日本でもナノテク・材料の技術の植物・農業への応用を更に掘り下げて検討すべきとの指摘があった。
・融合領域の構築に向けた課題として、異分野間の交流・情報交換の場や新材料のトライアルの場、医工連携を可能にするプラットフォームなどの構築が課題として挙げられた。

本ワークショップを通して、我が国においてもライフサイエンスとナノテク・材料技術の融合領域からはイノベーションの源泉となりうる様々なシーズが生まれていることが確認された。特にバイオ計測技術においては、基礎研究のみならず、実用技術としての検討が望まれる段階にまで達しているものが多く見られた。一方、操作・制御、デザイン・創製に関してもユニークな技術が数多く生まれているが、実用可能な人工分子システムの構築に向けては、これらの技術を単独ではなく、適切に組み合わせて研究開発を推進することが必要であると認められた。今後、ライフサイエンスとナノテク・材料技術の融合領域から生まれる様々なシーズをシステマティックな連携体制の構築を通して研究開発を推進するための戦略・方策について、掘り下げた検討を進めることが重要と言える。また、計測においても、人工分子システムの構築においても、生命科学、医学・医療、植物・農業に応用する際の意義づけやヒト、微生物、植物など生体へ適用する上での課題を、技術開発者と基礎生命科学/医学/バイオエコノミー側の研究者の間で深く議論する場が必要であると考える。いうまでもなく、関連研究の海外動向を適切に把握しながら、共同研究等も含め、海外と協力して研究の推進を図ることが重要である。

※本文記載のURLは2022年6月時点のものです(特記ある場合を除く)。