海外調査報告書
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ASEAN諸国の科学技術情勢 ~ベトナム~

エグゼクティブサマリー

1976年の南北統一以降、社会主義共和制をとるベトナムは、歴史的にも、また政治的にも従来、ロシア、中国との関係が深かった。しかし、1986年からの「ドイモイ(刷新)政策」により市場経済システムの導入と対外開放化を推進し、西側諸国を含めた全方位外交を進めてきた。特に2007年のWTO加盟を契機として、各国からの投資を積極的に受け入れ、輸出入を活発に推進するなど、グローバリゼーションの波に乗っためざましい経済発展を遂げている。

科学技術・イノベーションに関しては、研究開発費が企業部門を中心に増加しているものの、急速なGDP拡大には追いついておらず、政府目標の対GDP比2%には達していない。研究者数はASEAN諸国の中でもタイ、インドネシアに次いで多く、企業部門、高等教育機関において科学技術人材の育成が進んでいる。科学技術論文数は特に高被引用論文数の増加が著しく、ASEAN諸国の中ではシンガポール、マレーシアに次いで多くなっており、分野では数学、工学、計算機科学に関する論文の質が向上している。

科学技術・イノベーション政策では、国家の社会経済発展戦略に基づく「科学技術イノベーション発展戦略(2021-2030)」を進めており、重点領域として、情報通信技術、バイオテクノロジー、新素材、海洋技術、気候変動対策、エネルギー、環境技術、宇宙開発、建設、輸送インフラなどをあげている。

海外との科学技術協力は全方位外交の基本方針のもと進められているが、近年は西側諸国との関係を強化しつつある。例えば、ベトナム最大の輸出相手国となった米国とは、2023年のバイデン大統領訪越の際、半導体分野のサプライチェーン強化のほか、人工知能、健康・医療科学、気候科学、バイオテクノロジーなどの分野での研究開発、理工系人材育成など包括的な科学技術協力に合意した。また、サムスングループをはじめとした韓国企業の直接投資と輸出が近年のベトナムの経済発展の原動力となっている。このような経済、貿易面での関係強化が進む韓国とは、2015年に両国政府が計7000万米ドルを投じて設けた「ベトナム・韓国科学技術研究院」でバイオテクノロジーやIT(情報技術)など重点分野の研究開発を進めているほか、韓国政府がベトナムで運営する「韓国ITスクール」を通じた人材育成も行われている。1970~80年代に多数のベトナム移民を受け入れたオーストラリアも、有力な協力相手として存在感を示している。2018年に開始されたイノベーション協力事業では、オーストラリア政府が10年間で約30億円を提供し、デジタル技術の実装に関する調査、研究成果の商業化(農業、食品産業)に向けた実証実験、新たなイノベーション創出のための競争的資金による研究開発支援などのプログラムを進めている。

日本は、昨年ベトナムとの国交樹立50周年を迎えた。この間、政府開発援助や企業の進出、留学生の受け入れなど、幅広く交流関係を築いてきた。ベトナムが各国と新たな科学技術協力を展開する中、これまで築き上げてきた日越のネットワークを活かしつつ、デジタル技術の応用や人材活用など新たな協力関係を築き上げる時期に来ている。

※本文記載のURLは2024年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。