第239回「ベトナム、国際科技協力拡大」
ベトナムは社会主義共和制を取りながらも、1986年の「ドイモイ政策」以降、市場経済システムの導入と対外開放化を進めてきた。特に、2007年の世界貿易機関(WTO)加盟を契機に、諸外国からの直接投資が増大し、外資系製造業を中心とした貿易の拡大によって高い経済成長を続けている。
「竹の外交」
外交においても、こうした経済と社会の発展を支えるべく全方位の姿勢を取っている。政府を指導するベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長は、「竹は柔軟かつ強固で、『勇敢、頑強、不屈』というベトナム民族の高貴な精神を示す」として、「竹の外交」を強調している。
海外との科学技術協力に関しても、こうした方針を踏襲し、近年は西側諸国との関係を強化している。例えば、ベトナム最大の輸出相手国となった米国とは、23年のバイデン大統領訪越の際、半導体分野のサプライチェーン(供給網)強化のほか、人工知能やヘルス分野の研究開発、理工系人材育成など包括的な科学技術協力について合意した。
また、韓国とは、15年に両国政府が計7000万ドルを投じて設けた「ベトナム・韓国科学技術研究院」でバイオやIT(情報技術)など重点分野の研究開発を進めているほか、韓国政府がベトナムで運営する「韓国ITスクール」を通じた人材育成も行われている。
70-80年代に多数のベトナム移民を受け入れた豪州も、有力な協力相手として存在感を示している。18年に開始されたイノベーション協力事業では、豪州政府が10年間で約30億円を提供し、デジタル技術の実装に関する調査、研究成果の商業化(農業、食品産業)に向けた実証実験、新たなイノベーション創出のための競争的資金による研究開発支援などのプログラムを進めている。
新たな日越協力
わが国も、ベトナムとの国交樹立以降50年にわたって、政府開発援助や企業の進出、留学生の受け入れなど、幅広く交流関係を築いてきた。ベトナムの各国と新たな科学技術協力を展開する中、これまでの日越のネットワークを生かしつつ、デジタル技術の応用や人材活用など新たな協力関係を築き上げる時期に来ているのではないか。
※本記事は 日刊工業新聞2024年4月26日号に掲載されたものです。
<執筆者>
田子 智久 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)
同志社大学経済学部卒業後、総合化学メーカーに入社。感光性樹脂のマーケティング、電子材料の台湾・中国での製造販売会社の設立・経営を経て、電子材料の営業部長・事業部長(理事)などを歴任。21年より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
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