俯瞰ワークショップ報告書
  • 材料・デバイス

計算科学 ~物質・材料シミュレーションの最前線~

エグゼクティブサマリー

本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が2021年7〜10月に開催した俯瞰セミナーシリーズ「計算科学 ~物質・材料シミュレーションの最前線~」に関するものである。

計算科学領域は、ナノテクノロジー・材料分野の基礎および応用を支える共通の基盤科学技術として、継続的にその動向を調査してきた研究開発領域である。本セミナーシリーズでは、計算科学の手法の研究開発に関する新潮流の兆しを捉えるため、まずは7つの中心的なテーマに着目し、連続セミナーを開催した。以下にそれぞれのテーマの概況を記載する。

① フェーズ・フィールド法
デンドライト成長、核形成、スピノーダル分解など、様々な材料の内部組織の形成プロセスを再現できる現象論的なシミュレーション手法である。材料組織と材料特性をつなぐ、次世代材料設計ツールとしての展開が期待されている。

② 超大規模分子動力学シミュレーション
経験的な原子間相互作用モデルを用いて古典的運動方程式を解き、多粒子系のダイナミクスを計算する手法である。超大規模並列計算によって、摩擦や摩耗など、ナノ・メゾ・マクロの異なるスケールの現象が関わりあう系を包括的に扱えるようになっている。

③ 熱力学的状態図計算
温度、圧力、組成など、外部条件によってどの相が安定かを示す物質の地図や羅針盤とも言えるものが状態図である。実験で得られるパラメータを用いて状態図は計算されるが、近年、電子論計算を用いて純粋に理論的に計算する試みが進められている。

④ 界面電気化学現象シミュレーション
電極と溶液の界面で起こる電気化学現象を再現する分子シミュレーション技術である。これまでは難しかった電極電位の直接定義が近年可能となり、燃料電池や蓄電池の開発、腐食や防食、メッキなど様々な現象への応用が期待されている。

⑤ 半導体デバイスシミュレーション
半導体中の電子や正孔の輸送過程を計算して、トランジスタなど半導体デバイスの電気特性を再現する手法である。量子論的効果や、不純物原子の離散配置など原子論的効果を取り入れた精緻なシミュレーションが、最先端のナノスケールデバイスの研究開発を支えている。

⑥ 強相関電子系の第一原理計算
理論的な扱いが困難だった多電子間の相互作用を正確に計算できる「階層的第一原理強相関電子状態計算法」が開発され、鉄系超伝導体や銅酸化物超伝導体など、強相関電子系の電子状態を求めることが可能になっている。

⑦ データ科学を用いた物質科学研究
近年著しい発展を遂げている機械学習をはじめ、データ科学の手法を物質・材料シミュレーションと連携させる研究手法である。例えば、理論計算データに実験データを加味することで計算結果の精度を向上させる「データ同化」などの手法開発が進展している。

これらの結果は、CRDS でさらに検討を加え、今後の戦略提言に活用していくとともに、2023年に発行を予定している「研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2023 年)」に反映させる予定である。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。