科学技術未来戦略ワークショップ報告書
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複雑な流れ現象の解明と統合的制御

エグゼクティブサマリー

本報告書は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が令和3年1月8日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ(WS)「複雑な流れ現象の解明と統合的制御」に関するものである。本ワークショップでは、複雑な流れ現象に関わる流体科学分野(流体工学・流体力学およびその周辺分野)を俯瞰し、我が国における研究状況や今後進めるべき研究開発課題・推進体制について、次の2点をテーマとして議論を行った。

①複雑な流れ現象の普遍的な原理等の解明、高度な予測、統合的制御を可能にする、実験・シミュレーション・理論・機械学習を連携した研究推進体制の構築と研究要素
②サイエンスとしての流体科学とエンジニアリングとしての流体工学を統合させ、イノベーション創出や出口ニーズに繋がる研究開発課題とこれらの社会的・経済的インパクト

複雑な流れ現象とは、乱流など流体自体は単純だが流れが複雑なものと、混相流・非ニュートン流など流体自体が複雑なものなどがある。これらに対する研究はいずれも質的転換期にある。すなわち、従来のアプローチである支配方程式の解析と新しいアプローチである機械学習との融合により、複雑な流れ現象の本質的な理解が今後数年で大きく進展すると予想されている。機械学習による新たなアプローチによる研究は、現時点では基本的な流れで検証する萌芽的段階にあり、今後、乱流・複雑流体などの現実的な流れを対象とした研究で検証し、より本格的な研究に発展させる必要性があることが示された。さらに、実験・理論・数値計算・機械学習を融合し、一体的に取り組むことを通じ、新たな流体力学の構築を目指す必要があることが示唆された。

日本においては、これまで本対象領域の様々な出口ニーズ(航空、環境、気象、バイオなど)に対応して、個別の流れ現象を対象にした具体的な研究が多く実施されている。しかし、それらは具体的な研究の個別目標実現にとどまり、流体現象の本質を解き明かすものではなかった。研究の質的転換期を迎えた今、個別の流れ現象や事例を数多く包含するテーマを設定し、個別具体的な研究と流体の本質に迫る研究との相互作用を促す制度設計が必要である。非線形性が強くマルチスケール性を有す複雑な流れ現象における普遍的な現象理解や理論の確立は、イノベーション創出のキーである。高忠実な流体データベースを構築し、豊富なデータから構成則の構築を目指す必要がある。本対象領域における航空・環境・気象・バイオ分野などの研究動向を見据えながら、普遍的な現象解明と理論の確立をテーマとして研究開発を推進する必要がある。

研究開発の推進方法としては、まず各大学・学会・産業界とのネットワークを形成する必要性が示唆された。当該分野は裾野が広いが、細分化している現状があり、本分野の転換期を迎えた今がネットワークを形成する最良の時期である。関連分野との接点や社会問題との接点を意識した対話を重ねながら、ネットワークを活性化させることが必要である。これに関しては、5年程度後の拠点化もしくはコンソーシアム化の実現を見据えながらネットワークにおいて研究を推進することが必要との認識を得ることができた。

本対象領域は2050年カーボンニュートラル社会の実現や安全安心な社会の構築に向けた基盤的科学技術であり、国としての中長期的な視点からの支援が不可欠である。新しい流体学理の創成と産業応用への基盤となるモデル構築とを両輪で進展させ、新しい価値創造を目指すことが今、求められている。

※本文記載のURLは2021年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。