調査報告書
  • 環境・エネルギー

デジタルツインに関する国内外の研究開発動向

エグゼクティブサマリー

デジタルツインとは、高度な計測・観測により収集されたデータを基に、大規模データ処理と現象のモデリングを通じて、フィジカル空間内の現象や人工物をサイバー空間内で仮想的に再現・複製するシミュレーション技術である。JST-CRDSは2018年に戦略プロポーザル「革新的デジタルツイン ~ものづくりの未来を担う複合現象モデリングとその先進設計・製造基盤技術確立~」(2018年3月)を発刊したが、当時と比べて現在はデジタルツインという用語を目にする機会は格段に増加した。産業や社会のデジタルトランスフォーメーション(DX 化)が一層進む中、デジタルツインの活用範囲は製造分野のみならずエネルギー、都市、気象などに拡大しつつある。こうした状況変化を受け、JST-CRDSでは日本および主要国を対象として、デジタルツインに関する各国の関連政策動向および研究開発動向調査を行った。

製造分野では、製造プロセスの高効率化や産業競争力強化や製造業のDX化に向け研究開発が行われている。その中でデジタルツインはスマートマニュファクチャリングを推進する中核的な技術と位置付けられている。相互運用性の実現が課題となっており、製造プロセスのモデリングに資する研究開発や共通プラットフォーム構築・標準化に各国が注力している。

エネルギー・都市分野では、デジタルツインは都市計画のためのシナリオ構築をサポートする技術と位置付けられている。建築物のデジタルツインやエネルギーマネジメント・モビリティマネジメントのためのデジタルツイン構築に向け、都市システムの構成要素のモデリングに資する研究開発が推進されている。

気象・気候分野では、全球規模の高解像度デジタルツイン構築を目指した研究開発が精力的に進められている。現在は自然災害、気候変動、海洋、生態系等の個別テーマごとのモデリングに注力しているが、将来的にはそれらを共通のプラットフォーム上で統合させる方向で研究開発が進められている。

複雑な現象のモデル化、そしてその検証やデジタルツインから得られた洞察をフィジカル空間へフィードバックすることはデジタルツインの根幹である。今回の調査ではこれらに資する技術領域の研究開発が各国で推進され、3分野に共通してモデリングに注力されていることが明らかとなった。また、個別の分野を横断する共通基盤としては、中長期的な時間軸でプラットフォーム構築、AIの活用、セキュリティの確保などに係る研究開発が推進されている。

以上を踏まえて本調査ではデジタルツイン構築・活用のフェーズを①(デジタルツイン構築に向けた)デジタル化、②局所的デジタルツイン、③包括的デジタルツイン、④自律的デジタルツインの4段階に整理した。包括的・自律的なデジタルツイン開発が目指すべき方向性であり、米国やドイツ等の製造分野のプロジェクトがデジタルツインの研究開発を牽引している。また欧米ではCPS(サイバーフィジカルシステム)技術を基盤技術として位置付け、長期的なファンディングプログラムが形成されている。政府や公的研究機関がデジタルツインの実現に向けた研究戦略など目指すべき方向性を示し、それに基づき研究費配分機関が基盤研究から技術開発までの包括的な支援を実施し、公的研究機関が実現に向けたコーディネーター的役割を果たすという推進体制も見られた。我が国ではデジタルツインおよびCPS技術はSociety5.0の実現に資する中心的な技術と位置付けられている。関連するステークホルダーを巻き込んで研究開発エコシステムを構築し、我が国としてのデジタルツイン研究開発を強力に推進していくことが望まれる。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。