俯瞰ワークショップ報告書
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原子力をとりまく現状と今後に向けて(第二回)

エグゼクティブサマリー


研究開発戦略センター(CRDS)では、エネルギー分野の研究開発の俯瞰の一環として、2度にわたり、原子力をとりまく現状を把握するためのワークショップを実施した。
第一回原子力俯瞰ワークショップ(2019年9月6日開催)では、大学、企業、国研等に所属する、原子力分野とその基盤となる科学・技術分野の専門家、倫理やコミュニケーションなどの人文社会科学分野の専門家ら合計26名を招聘し、講演10件とワークショップ形式の議論をおこなった。このワークショップを通じて得られた示唆は、原子力をめぐる課題は、総体的に<原子力に関する科学的知見や、それを基にした技術の習得、継承、発展のあり方に関するもの>と<原子力と社会(人間)とのあいだの隔たりに関するもの>の大きく2層構造になっているのではないかということであった。

社会課題としての原子力の課題について、より本質的に考えるためには、分野を超えて有機的な議論をおこなう必要がある。CRDSでは、<原子力に関する科学・技術のあり方>と<原子力と社会(人間)の関係のあり方>を有機的、一体的に議論する切り口として、第一回原子力俯瞰ワークショップで得られた多数の課題のうち、2層を貫く課題として、教育・人材育成に関する課題に着目した。第二回原子力俯瞰ワークショップは、教育・人材育成をテーマとし、分野を超えて多様な視点が混ざりあう議論をさらに促進すべく、開催された。
第二回原子力俯瞰ワークショップでは、原子力分野、その基盤となる科学・技術分野、被ばく医療分野、倫理やコミュニケーション等の人文社会科学分野の専門家を含む合計14名を招聘し、原子力に様々なかたちで関わる人びとの教育あるいは人材育成について、理想の人間像と、そのための教育・人材育成の課題、課題の解決方法を中心に議論した。この議論を通じて得られた、原子力に関わる教育・人材育成の課題と解決策への示唆は、大きく次の5点に整理できる。

① 原子力に関わる人材のポートフォリオの作成・現状分析を通じた全体の最適化とシステム構築
② 原子力分野を担うエースの育成
③ 実務者(技術者)の職場内訓練(OJT)の場の確保
④ 個人におけるノンテクニカルスキルの醸成と組織としての管理・ケア体制の確立
⑤ 求める人材の理想と産業・大学の現場における現実の乖離

上記5点のうち、最後の「求める人材の理想と産業・大学の現場における現実の乖離」の内容は、とくに、今回のワークショップにおける視点の豊かさ(企業の技術者や大学教員、工学や医療、倫理、コミュニケーション等、議論参加者の原子力への関わり方や専門分野など背景の多様性)により導かれたものである。異分野融合をはじめ、より開かれた議論を目指すうえで、⑤の内容は、①から④までの課題あるいは解決策を今後さらに議論する際の前提条件・状況として位置づける必要があると考えられる。