俯瞰ワークショップ報告書
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原子力をとりまく現状と今後に向けて

エグゼクティブサマリー


日本における原子力の議論は、常に難しさを伴ってきた。とくに福島での原子力発電所事故の後、原子力をめぐる議論において、その影響の残る地域について忘れることはできない。他方、原子力は、温室効果ガスであるCO2の排出が極めて少ないエネルギーとしての側面をもつ。産業革命期以来多くの国や地域で主要なエネルギー源となってきた石油や石炭などの化石燃料は、その大量消費により、深刻な気候変動をもたらしている。この影響は、生態系の破壊や海面上昇による国土の喪失など、人類の生存基盤を揺るがすものであり、日本を含めた国際的な取り組みが急がれている。「第5次エネルギー基本計画」で目標と定める、電源構成内の原子力発電比率20~22%の達成は、このような国際的取り組みのなかで日本が果たすべき役割の一端を表している。

JST 研究開発戦略センター(CRDS)によるエネルギー分野の俯瞰活動の一環である本ワークショップでは、このような日本の原子力をとりまく現状の把握に焦点をあてた。議論には、大学、企業、国研に所属する、原子力分野とその基盤となる科学・技術分野の専門家、倫理やコミュニケーションなどの人文社会科学分野の専門家、合計26名を招聘した。多様な視点や価値観から、全体として中立的かつ包括的な議論をおこなうことで、これからのあるべき日本の原子力の姿を描く手がかりを得ることを目指した。

本ワークショップで得られた示唆は、原子力をめぐる課題は総体的に、大きく二層構造になっているのではないか、ということである。この二層構造のうち、一層は、原子力に関する科学的知見やそれを基にした技術の習得、継承、発展のあり方についてである。もう一層は、原子力と社会あるいは人間とのあいだの隔たりに関するものである。

議論全体が示したのは、原子力をめぐる課題は、この二層でひとつを構成していると捉えるべきということである。科学と技術が前提としなければならないのは、多様な関心や懸念、利害関係のなかで生きる人間によって構成される、多面的な社会である。社会課題としての原子力の課題についてより本質的に考えるためには、それを専門分野ごとに細分化するよりも、むしろ分野を超えて全体を有機的に把握する必要があることが明らかになった。

※本文記載のURLは2020年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。