戦略プロポーザル
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機能解明を目指す実環境下動的計測の革新 ~次世代オペランド計測~

エグゼクティブサマリー

本提言では、物質内、生体内、あるいはデバイス内で起きている化学的、生化学的あるいは物理的な動的現象を実際の使用環境、動作環境、製造環境のもとで計測し、その現象がもたらす対象の機能の解明に直接的につなげていこうとの試みに関して述べている。このような計測は「オペランド計測」と呼ばれ、材料・デバイスの開発における重要なツールになると期待され、すでに触媒や電池材料などへの適用が試みられている。計測技術や計測機器の著しい技術進展もあり、優れた研究成果がすでに得られつつある状況である。しかしながら、現状のオペランド計測にはいくつかの問題点があり、必ずしも喫緊の社会課題に対する解決ニーズに十分に応えられていない。例えば、ナノの計測が実用サイズの機能に結びついていない、計測結果が実環境での本質的な問題点を捉えきれていない、計測の空間・時間分解能が不十分、機能改善に必要な材料特性を得る計測・解析プロセスが難解、などである。計測技術に対する期待と現状の間に存在するこれらの「ギャップ」によって、必ずしも計測対象の機能解明に十分に踏み込めていなかった。さらには適用対象が非常に限定的であり、オペランド計測が本来持つ高いポテンシャルを幅広い分野・領域に適用できていなかった。本提言は、現状のオペランド計測が持つ上記の「ギャップ」を解消することで、材料やデバイスの機能を解明するための情報を提供しうる、さらには他の材料やデバイス、加えてバイオ・ライフサイエンス分野なども含め、広範な分野・領域にも展開しうる「次世代オペランド計測」の確立を目指すものである。

上記の「ギャップ」を解消し、計測技術に対する期待に応えうる「次世代オペランド計測」を実現するために今後取り組むべき研究開発課題として、3つの計測・解析技術に関する課題と、データ科学技術に関する1つの課題を取り上げる。
課題① 研究開発ニーズに合致した最適な「モデル環境」の開発
課題② 複合的計測システムの構築と、スケール間をつなぐ計測・データ科学技術の開発
課題③ 高い計測分解能(時間・空間・エネルギーなど)の計測装置・技術の開発
課題④ データ科学に立脚した計測技術の開発

以上の研究開発課題を協調的に推進するための方策として、以下4つを掲げる。
I. 新たな科学の開拓や社会的課題の解決に向けた分野融合・連携
II. 計測インフォマティクスの導入によるデータ科学プラットフォーム化
III. 人材育成・確保
IV. ユーザーの利便性を考慮した計測・解析システム構築
これらの方策を実施することで次世代オペランド計測が実現すれば、計測対象の機能を解明することで、喫緊の社会課題に対する解決ニーズに応えることが可能になる。一方で、新しい計測手法は常に新たな科学的発見を誘起してきた。次世代オペランド計測の主な計測対象である、不均質・不安定・過渡的な複雑系に対する計測技術駆動の新しい学術分野の創出・発展につながる。様々な分野での科学的発見の歴史を振り返れば、この新しい計測手法が革新をもたらし、新たな分野を切り拓いていくことへの期待は大きい。

※本文記載のURLは2021年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。