研究開発の俯瞰報告書
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研究開発の俯瞰報告書 主要国の研究開発戦略(2021年)

エグゼクティブサマリー

「研究開発の俯瞰報告書 主要国の研究開発戦略」は、研究開発戦略立案の基礎として把握しておくべき、主要国の科学技術イノベーション政策や研究開発戦略に関する動向をとりまとめたものである。

具体的には、日本、米国、欧州連合(EU)、英国、ドイツ、フランス、中国を対象に、科学技術イノベーション行政関連の組織、科学技術イノベーション政策の体制やファンディング・システム、分野別(環境・エネルギー、ライフサイエンス、システム・情報科学技術、ナノテクノロジー・材料)の基本政策、研究基盤政策、研究開発投資戦略などについて、最新の変化も含めて国ごとの動きを整理した。

近年の傾向として各国の科学技術イノベーション政策は、おしなべて卓越した研究成果を生み出し、その成果をいち早くよりインパクトあるイノベーション創出につなげることを主目標としている。さらに、地球規模の気候変動や先進国に共通の少子高齢化・人口減少による問題をイノベーションの創出をもって解決する、社会的課題解決型のアプローチが積極的にとられており、欧州各国では 2000年代に入ったころから、ニーズ志向の施策が拡大している。社会的課題からバックキャスティングによって研究テーマを設定し、市民や民間企業を含むさまざまなステークホルダーの参画を促すことによって、イノベーション創出を実現する環境を鋭意整備してきた。新たに一定期間内に個々の活動では達成できないような計測可能な目標を達成し、科学技術を通じて、社会・政策決定にインパクトをもたらして、社会変革を目指す「ミッション志向型研究プログラム」が導入されようとしている。

これらを踏まえ科学技術イノベーションの動向に目を向けると、量子や AI といった国の安全保障にもかかわるような分野では、国家戦略としてこれらを強力に推進するという流れにあり、これら重要技術が今後の国力を左右すると言って過言では無い。また、情報通信技術の急速な発展は社会や産業の構造を変えていると言えるが、科学技術自体をも変えていくであろうと想定される。特にデータ駆動型科学技術が各研究分野の浸透しつつあることは研究手法を大きく変えつつある。この変化は研究者の独創性を刺激し新たな発想を誘発するなど研究活動の根幹にまで及んでいる。科学技術と社会との関係が深化する中で科学技術への懸念も増大し、ゲノム編集や AI の研究活動では ELSI の問題が惹起されつつある。今後は研究活動の一環として、一般市民との対話を行い、新しい技術を社会に導入するに当たって、メリットのみならず安全性や倫理上の問題を同じ俎上に上げて議論していくことがより重要となると考えられる。イノベーション重視の傾向であることは明らかだが、研究開発のグローバル競争に勝ち抜くためにも各国ともそれを支える新興・基盤技術への投資は弛まず続けている。

一方、各国が従前にも増して科学技術イノベーションとそれを支える研究への取組を強化していく中で、オープンイノベーションやオープンサイエンスといったオープン化と、国際的な共同研究の増加や頭脳循環の強化などの国際化が進展している。国内的にも国際的にも開かれていることが、活力ある研究システムのために不可欠であることが今や広く認識されている。しかしながらオープン化、国際化に伴うリスクに関する懸念が世界的に高まっており、リスクに対処するための議論や具体的な対応が進展している。オープンな研究システムが不当に利用されることにより、技術流出等を通して国家安全保障に悪影響が及ぶとともに、研究システムの健全性が損なわれているという認識が共有されつつある。背景には、これまで研究の分野で共有されてきた価値観とは異なる価値観が登場して現行のシステムを揺るがせつつあり、規範やルールを再確認あるいは再構築する必要があるのではないかという世界的な問題認識があると考えられる。このような環境の変化を踏まえて、研究インテグリティのあり方を見直し、強化していくことが、新たな状況の下で研究の自由と開放性を重視しつつ研究システムの健全性を確保していくために必要であり、そのことは問題のある事案等を生じにくくすることを通して国家安全保障上の懸念への対応にも資するものと考えられる。また、そのような取組について社会に示し説明責任を果たしていくことにより、社会の信頼を得ていくことが重要である。

研究開発のグローバル化が進化する中、2020年初頭から次第に拡大し未だ収束を見せない新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、各国の研究開発活動に大きな影響を与えている。新型コロナウイルスに直接関連するワクチン開発や治療法の研究開発を除き、多くの大学や研究機関が活動を一時停止したり、国境を越えた移動が制限されたりしたことなどから、これまで当たり前とされてきた研究開発のあり方が変わろうとしている。本報告書でも注目動向として「各国の新型コロナ対策」について、研究ファンディングならびにポストコロナの動向を記載した。

なお、本書は、既に公表している「研究開発の俯瞰報告書 主要国の研究開発戦略(2020年)」に改訂を加えたものである。

目次

研究開発の俯瞰報告書 主要国の研究開発戦略(2021年)