科学技術未来戦略ワークショップ報告書
  • 情報・システム

複雑社会における意思決定・合意形成を支える情報科学技術

エグゼクティブサマリー

 本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が平成29 年6 月19 日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ「複雑社会における意思決定・合意形成を支える情報科学技術」に関するものである。

 人工知能(AI)技術の進化が著しく、人間の代わりにAI によって自動実行されるタスクが増えつつあるが、目的・意思に基づいてそれらのタスクを定義し、実行を指示し、結果を評価する等、上位の意思決定をするのは人間である。人間の集団における合意形成も必要である。
 意思決定・合意形成は古くからある問題だが、近年、情報爆発、ボーダーレス化、AI 化が進んだことで、意思決定・合意形成に関わる要因・影響が爆発的に拡大・複雑化し、意思決定・合意形成問題が著しく難しいものになってきた。例えば、企業の経営戦略、専門性の高い医療診断、国民投票等に困難化の事例が見られる。
意思決定・合意形成の失敗は、社会の維持、国家/企業/個人の生存・競争力を揺るがすものであり、この問題解決に対する社会的要請が急速に高まっている。
 この問題の解決に向けて、情報科学技術は様々な面から貢献できるはずで、既にそのような取り組みがなされており、少しずつ成果をあげつつある。一方、このような意思決定・合意形成の難しさを引き起こした原因に、情報科学技術そのものが少なからず関わっている。
そういった面からも、この問題に立ち向かうことに、情報科学技術としての責任があるとも言える。
 CRDS の検討チームでは、上記のような問題意識に基づき、外部の有識者約20 名へのインタビューとチーム内議論を通して、目指す方向性として「複雑化していく社会において、個人・集団が主体性や納得感を持った、より良い意思決定・合意形成を可能にする」というビジョンを仮置きした。
さらに、その実現に向けて重要になる研究課題を、①より良い意思決定・合意形成を支える個人や集団の知識・スキルを補完・強化する研究開発、②個人・集団のより良い意思決定のための新しい方法論やファシリテート法に関する研究開発、③知能(人間の意思決定能力)のあり方、当分野の研究のあり方に関する指針、とい う3 面で整理し、仮置きした。
 ワークショップでは、趣旨説明として、上述した問題意識、ビジョン・研究課題の仮説(仮置き)を共有した上で、5 名の発表者から各自が考える目指すべき方向性と具体的な取り組み事例をご紹介いただき、それを受けて5 名のコメンテータからご意見をいただき、最後に全体討議を行った。
 今後、今回のワークショップで新たに示唆された点を取り込む形で検討を深める。
また、その新たに示唆された点を中心に、追加の調査および有識者インタビューを行う。
それらに基づき、9 月末を目標として、プロポーザルの骨子を固めていく予定である。