俯瞰ワークショップ報告書
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ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ ~持続的な維持管理への対応技術~」

エグゼクティブサマリー

 本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が平成28年2月24日に開催した『俯瞰ワークショップ(WS) ナノテクノロジー・材料分野 領域別分科会「社会インフラ −持続的な維持管理への対応技術−」』に関するものである。

 ナノテクノロジー・材料分野の視点で社会インフラを取り上げ、この領域の現状と課題および注目動向の把握、今後取り組むべき新たな科学技術の議論をする目的で、ワークショップを開催した。趣旨説明に続き、社会インフラの現状と課題、社会インフラ材料研究プロジェクトの概要、鉄鋼材料の課題、接合とコーティングの課題、腐食・劣化の問題に関する話題提供と、これらを踏まえた社会インフラの持続的な維持管理の対応技術に関する総合討論を行った。

 趣旨説明では、健全な社会インフラの維持管理を進めていく上で、構造材料、接合・接着技術、コーティング・表面処理などの構造形成技術、劣化・腐食の機構解明、計測・点検・分析評価、劣化予測・余寿命予測、補修技術に取り組むべき課題があると考え、社会インフラに関する俯瞰図案を紹介した。

 社会インフラの現状と課題では、インフラとして橋梁を取り上げ、高度成長期に作られた橋梁の老朽化の進行、保守費用増大による更新の困難性、大多数を占める市町村保有の橋の財政上および技術者不足などの課題が示された。社会インフラ材料研究プロジェクトの概要においては、SIP「インフラ維持管理 ・更新・マネジメント技術」、SIP「革新的構造材料」、NEDOプロジェクト「革新的新構造材料等研究開発」の活動が紹介された。鉄鋼材料の課題では、鉄鋼材料の疲労、損傷、腐食などの劣化状況を監視するセンサの開発とセンサネットワークシステムの構築、劣化の数値モデリングとデータベースを組み合わせて材料の時間依存の性能を短時間で予測するマテリアルズ・インテグレーション・システムが紹介された。接合については、接合・溶接技術の問題点と課題、過去の事故の事例、将来ビジョンとロードマップ、SIPでの取り組みなどが紹介された。コーティングについては、溶かさずに粒子を吹きつけ成膜するコールドスプレー法が紹介された。腐食・劣化の問題では、金属材料の腐食寿命予測技術の現状と今後の課題、非破壊検査と余寿命診断の基礎と考え方、放射光による腐食・劣化のマルチスケールその場観察について紹介された。

 総合討論では、上記の話題提供を受けて、コンクリートの余寿命予測、市町村におけるインフラのアセットマネジメント、鉄鋼材料のさびの解析、防食と塗装・コーティング、溶接と疲労、リサイクルなどについて議論した。ここでは、古いものと新しいものを一緒に扱うエンジニアリングが重要なこと、コンクリートは鋼や他の補強材をうまく使う設計で対応できること、市町村ではインフラ維持の抜本的なシステムが必要なこと、腐食は様々な腐食環境において数値モデルを作ることが重要なこと、海洋構造物の鋼の防食には塗装と電気防食を併用することが有効であること、溶接部から入る疲労亀裂や腐食の予測技術が重要なこと、経年劣化材の溶接技術の必要性、材料の履歴やデータベースの整備が重要なこと、過積載など不確実なリスクへの対応が必要なこと、社会インフラにとってもリサイクルの視点は非常に重要であること、などが指摘された。

 これらの結果は、CRDSでさらに検討を加え、2016年度末に発行予定の「研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2017年)」に反映させるとともに、今後国として重点的に推進すべき研究開発の検討に活用していく。