科学技術未来戦略ワークショップ報告書
  • バイオ・ライフ・ヘルスケア

次世代型の健康リスクマネジメントを実現する健康医療システムの構築

エグゼクティブサマリー

 科学技術振興機構(JST)/研究開発戦略センター(CRDS)は、JSTの研究開発戦略を立案するとともに、我が国の研究開発の推進に資する基礎データおよび知見の収集とそれに基づく戦略的研究分野の提言を行っている。CRDSでは平成25年度に、先端的な研究領域から得られつつある科学的知見や萌芽的技術等を踏まえて、未来志向で新規性のある社会像を描き、駆動力をもつ科学技術の洗い出しを行なった。その結果、社会が望み求めること(社会的期待)と具体的な研究開発領域/課題の抽出を独立に進めた上で、両者を結びつける(邂逅させる)一連のプロセスを実現した。このプロセスにより、検討すべき研究開発戦略としてA:「医療と病院の変容」、B:「人と機械の新たな関係」、C:「人の能力とコミュニケーション」が取り上げられた。このうち、Aに基づき、平成26年4月に戦略スコープ「医療と病院の変容」を探索する目的で豊かな健康社会のあり方(健康リスク制御システム)チーム(総括:浅島誠上席フェロー、永井良三上席フェロー、チームリーダー:山本義春特任フェロー)が編成された。

 健康リスク制御システムチームは、先端的な研究開発動向に基づいて未来の社会像を描き、その実現に向け重要と考えられる研究開発課題と必要な社会制度等を抽出し、これらを組み合わせることによって、保健医療の質を保証しつつコストを低減させるような未来の健康医療システム「健康リスク制御システムの構築」を実現するための科学技術戦略立案を目的としている。
これまでの有識者セミナー、インタビューなどの活動を通じて、本システムの機能である、健康リスクの「モニタリング」「モデリング・予測」「制御・誘導」について、科学技術の抽出を行い、先端性に応じた俯瞰を行った。また、国内外の情報通信技術の健康・医療への応用についてのプロジェクト等を調査した。本チームでの提案はこれら計画されているプロジェクトにコアとなるツールとエビデンスを提供する基盤となる方向でまとめる予定である。

 チームの調査・検討内容をより深化する活動の一環として、「次世代型の健康リスクマネジメントを実現する健康医療システムの構築」ワークショップを開催し、上記の先端科学技術、医療、医療倫理、ヘルスケア推進を専門とする有識者より最先端の技術、研究開発、業界などの動向に関する発表と意見交換を行うこととした。本ワークショップでは、参加いただく有識者に事前にアンケートに回答いただき、「健康リスク制御システム」の構築に資する先端科学的シーズと将来的な研究テーマやそれを達成するための望ましいファンディング形式などについて意見を集約した。これらも踏まえて、今後の課題抽出・研究推進にあたって必要な方策、また本研究領域に公的資金を投入する意義の明確化などを議論した。

その結果、主に以下のような研究開発の重要性が挙げられた。
• 被験者の負担にならないセンシング技術、モニタリングに耐えるバッテリー技術
• 健康から疾患までの各ステージに応じて、悪化の状態遷移を予防するエビデンスを出していく研究
• モニタリングから分析、予測を導く方法論や、それに必要な定量的な指標の抽出、制御手法の開発
• 社会受容性向上を見据えた教育も含めた行動誘導や文化醸成
・産官学連携のデータ利活用の仕組みづくり

 また、これらの研究は広範囲であり、必要な研究者、関係者が多様であることが指摘され、実際の研究やその評価を行なうにあたり個別の疾患やステージで研究のアプローチが違ってくることが指摘された。

 今回のワークショップで得られた意見や提案を整理、統合し、多くのステークホルダーとの関わり方やアウトプットイメージを明確にすることに留意しつつ、健康リスク制御システムチームが作成する提案書へと反映する予定である。