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ナノ・IT・メカ統合によるロボット基盤技術の革新~人に寄り添うスマートロボットを目指して~

エグゼクティブサマリー

 少子高齢化が進むこれからの社会において、負担の少ない高齢者介護、持続可能な社会インフラ保守管理、災害やテロに対するセキュリティ強化などの課題の解決には、人間が苦手な作業の代行や人間の能力を強化するロボットの活用が望まれる。本提案は、このような人に寄り添いスマートな(賢い)ロボットを実現するための革新的な要素技術・基盤技術開発とこれらの統合化、モジュール化を可能とする研究開発のプラットフォーム構築に関するものである。

政府は2015年1月にロボット新戦略を策定し、ロボットの早期実用化やシステム・サービスの強化を図ろうとし、多様な国家プロジェクトが推進されている。これらの活動を要素技術・基盤技術の立場から後押し、今後発展が期待されるサービス分野でのロボットの産業競争力を強化するためには、コアとなる材料や部品、モジュールの開発を通して、ものづくり力で世界をリードすることが必要である。これには、ロボットの主要分野であるメカニクスと、進展の大きな情報通信(IT)やナノテクノロジー・材料など異分野間の技術の融合・統合による新たな要素技術・基盤技術の開発が不可欠と考えられる。また、サービス用ロボットでは人間と共生することが前提となるため、スマート化、高性能化、低価格化などとともに、小型軽量化や安全性向上が求められ、ソフトロボティクスのような新たな要素技術・基盤技術やそれらを統合したモジュール開発が必要になる。

 ロボットの3大構成要素である動力系技術、センシング技術、制御技術に注目すると、以下の開発が重要となる。動力系の技術としては、軽量、高効率、高出力の新たなアクチュエータの開発が重要である。現在のロボット用のアクチュエータの主流である電磁モータの特性向上だけでなく、新たな動作原理に基づくアクチュエータ、アクチュエータそのものが柔らかいソフトアクチュエータや人工筋肉などの研究開発が望まれる。センシング技術としては、サービス用のロボットでは多くのセンサが搭載されるため、小型・軽量・高精度・高信頼に加え桁違いの低価格化が求められる。制御系の技術としては、自律的動作や他のロボットや周辺機器との協調動作を可能とする周辺状況の観測・認識、姿勢制御、高速な通信、状況変化の予測などが重要であり、センサ情報の高速処理可能な新アーキテクチャを組み込んだ集積回路、人工知能技術、予測してない環境の変化に安全に対応できるような生物の認識や行動の原理を模倣しモデル化した制御手法の開発が重要である。さらに、これまではロボットの構成部品として扱い難かったプラスチックやゴムなどの柔らかい材料を精度良く制御する技術も必要であり、材料、駆動系、センサ、制御の研究者・技術者が一体となった技術開発が望まれる。

 個別の要素技術・基盤技術開発だけでなく、具体的なロボットやロボットを使うシステムの実現を目指して、ものづくりの視点でこれらの技術開発を進めることが重要であり、要素技術・基盤技術開発を統合化できる製造設備や最先端の技術を使いこなせる実験施設を持ち、モジュールやシステムレベルの機能実証ができ、その有効性を評価できるプラットフォームが必要である。このプラットフォームを活用し、産学官が連携して研究開発、新たな知識として蓄積、若手研究者・技術者の人材育成を行うオープンな研究開発拠点の構築が重要になる。