科学技術未来戦略ワークショップ報告書
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社会変動予測と社会システム構築のための社会シミュレーションの展望

エグゼクティブサマリー

平成26年度に発足した社会システム構築チームでは、社会変動の予測やこれに基づく社会システム構築のための方法論の要件について、文献調査、有識者へのインタビューを通じて検討してきた。少子高齢化が進展し、国の形が大きく変わろうとしている中での社会変動の予測やシステム構築にあたっては、これまで取り組まれてこなかった、人々の多様な行動を想定した木目細かな社会シミュレーションが不可欠となっている。このために、伝統的な経済学的モデルに、マルチエージェントモデルに代表される人々のミクロな行動をモデルに織り込んだ計算論的アプローチによる社会シミュレーションが有力な方向であること、さらに、この具体的な課題として、喫緊の地方創生に取り組むべきであるとの仮説を持つに至った。

本深掘ワークショップの目的は、有識者との議論を通じて、社会シミュレーションにおける計算論的アプローチの必然性、その端緒としての地方創生に取組むことの重要性、研究開発における技術的ボトルネックの把握と今後の課題抽出、公的資金を投入する意義の明確化、研究推進にあたっての必要な方策などをより具体化することにある。

なお、本ワークショップにおける議論を通して、以下に示す内容の結論を得た。

(1)システム科学からの社会システム構築への取り組みの意義づけ

  • 社会システムとして、ヘルスケア、教育、産業、防災等、様々な切り口からの課題解決が時代要請としてあるが、特に、地域創生という社会システムデザインが国として求められている。社会システムデザインは、これから大学に取り組みを期待すべき新たな学問分野であり、人文・社会科学と自然科学が本格的に融合を始める場と位置づけられる。

  • 政策形成は、時間の制約と予算取り・法整備、実装といった厄介なプロセスを含むが、エビデンスに基づいたアプローチが求められており、人口縮小期にあっては、ダメージが少ない形でダウンサイジングしていくことが必要である。ここにおいて、システム科学は、複雑に絡み合った問題構造を理解するためのツールを提供し、社会シミュレーションは洞察を深めるのに有用である。政策形成においては、不確実性を減らして議論の範囲を狭くしていくことが肝要である。

(2)社会システム構築のための社会シミュレーションの方向性

  • 社会システムの複雑性の本質は関与者の行動がもたらす複雑な境界条件にある。エージェントベースモデリングは、この複雑な境界条件を表現可能とする方法論の革新である。社会の出来事は、歴史上の一回のシミュレーションのようなものであり、これに対して、様々なシナリオをシミュレーションによってフォーサイト・バックキャストして、未来に備える政策を立案する。

  • 経済学では、一般均衡モデルを発展させた動的現象の把握に向かっている。ここでは、家計や企業の社会での行動描写において、社会データが限られた範囲でしかない状況での最善の策としてのモデリングであり、施策の順位付けを行うための基本情報を提供するという立場をとる。

  • 経済・社会現象についても、物理現象と同じように観測し分析することによって、人や組織の行動モデルを作ることが可能なことが見出されており、行動における進化的な適応が特異現象を引き起こすという範囲までが含まれている。

(3)社会シミュレーションを展開する上での留意すべき事項

  • 社会システムは極めて多様であり、個別の社会シミュレーションと並行して、対象機能や政策レベル等の上位視点からのフレームワーク作りをすることが大切である。

  • 地域創生等の政策問題は、一つの専門分野だけで解決できるものではなく、いろいろな専門分野それぞれが主体的に取り組むことによって、新しい社会システムの構築へとつながることを念頭におく必要がある。

  • 社会シミュレーションを現実の課題に援用するには、対象となる問題の粒度やそのモデル設定、データ同化が必要であり、具体的に何を取り上げるかの選択が大変に重要である。

  • エビデンスベースの政策立案の基盤であるデータ採取に関して日本は大いに進んでおり、また、マイナンバーへの取り組みも始まろうとしているが、モデル構築の立場からのデータ整備への貢献も望まれる。