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G-TeC報告書 エネルギー分野の科学技術イノベーション政策

エグゼクティブサマリー

 各国共通の課題として、科学技術イノベーションの強化が求められている。「科学技術により新たな価値を生み出し、現状の閉塞感を打破する」ことへの社会的期待が背景にある。とりわけ、エネルギーについて科学技術が果たすべき役割は多く、したがって、エネルギー分野は、科学技術イノベーションが求められる代表となっている。我が国では、2011年8月の第4期科学技術基本計画で科学技術イノベーション政策が打ち出され、2013年6月に「科学技術イノベーション総合戦略」が決定されている。さらに、その後1年間の取り組みを踏まえ、2014年6月には、新たな視点を加えた「科学技術イノベーション総合戦略 2014」が発表された。本戦略の中で、科学技術イノベーションの重点対象として、エネルギー(他に、健康長寿、次世代インフラ、地域資源、復興再生)が位置付けられている。
 エネルギー分野では、どのような科学技術イノベーションが展開されているのか。実際の動きを追うと、持続可能なエネルギーの未来を目指し、各国が「化石から非化石へのエネルギー転換」という共通課題に取り組んでいることが分かる。先行するドイツでは、2010年時点で発電量に占める再生可能エネルギーの割合が17%に達し、再生可能エネルギー全体で36万人の雇用がもたらされた。非化石への転換をもたらす科学技術、そこから生まれてくる新たなエネルギー産業の優劣が、各国の競争力を左右する時代が始まっている。
しかしながら、全体として捉えると、エネルギー分野において科学技術とイノベーションを結びつけることは容易ではない。資源コストや市場動向などに基づく経済性が、科学技術の優劣を超えて、エネルギーシステム全体に影響を及ぼすことが大きな理由である。したがって、こうした経済性の障壁を克服し、個々の研究成果をイノベーションにつなげていくには、従来とは異なる研究開発のアプローチが必要になってくる。
 上記に応え、各国では、エネルギー分野の科学技術をイノベーションにつなげるための先駆的取り組みが展開されている。第一が、市場導入を主眼としたアプローチ。技術的には優れるが、実用性が未知、あるいは経済性に劣る先端科学を対象に「ハイリスク・ハイペイオフ型の研究枠」を提供する。その上で、本枠組みを用い研究開発を行うことで、当該技術の実用性を見極め、経済性を高め、エネルギー市場への導入を促していく。米国エネルギー省が所掌する「エネルギー高等研究計画局(ARPA-E; Advanced Research Projects Agency-Energy)」の取り組みなどが該当する。
第二が、社会導入を主眼としたアプローチ。技術的には優れるが、社会受容性に劣る先端科学を対象に「エネルギーの需要サイドの研究枠」を提供する。その上で、本枠組みを用い研究開発を行うことで、当該技術の社会受容を高め、エネルギーシステムへの導入を促していく。英国研究会議が所掌する「エネルギー需要センター(End Use Energy Demand Centres)」の取り組みなどが該当する。
 したがって、各国におけるこれらの取り組みを詳細に分析できれば、我が国がエネルギー分野の科学技術イノベーションを強化していくための有効なエビデンスが得られることになる。
そこで、上記想定に基づき、「エネルギー分野の科学技術イノベーション」をテーマとする「G-TeC(Global Technology Comparison)」を行った。G-TeCは、重要な科学技術動向に焦点を当て、各国・地域の状況を分析することで日本のポジションを確認し、今後取るべき戦略の立案に貢献することをミッションとする。