戦略プロポーザル
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CPS(Cyber Physical Systems)基盤技術の研究開発とその社会への導入に関する提案 -高齢者の社会参加促進を事例として

エグゼクティブサマリー

サイバーフィジカルシステム (CPS: Cyber Physical Systems) は、コンピュータと物理世界がネットワークを介して結合したもので、小さな組み込みシステムから航空機などのシステム、さらに国レベルでのインフラである電力ネットワークなどをも包含する広い概念である。このプロポーザルでは、コンピュータによる制御にとどまらず、系の中に人間を含むような複雑な社会システムを想定する。
CPSは、人間やモノから得られる実世界データを収集・処理・活用するものであり、あらゆる社会システムの効率化、新産業の創出、知的生産性の向上に寄与する。このため、CPSが、今後の重要な社会インフラとして広く浸透していくことが期待される。CPSが、今後社会システムとして定着するためには、1.開発効率の向上および付加価値向上に向けた共通基盤技術の整備と、2.社会への定着を強く意識した総合的な研究開発が必要である。
このプロポーザルでは、このような課題に対応し、CPSを社会システムとして定着させるための共通的な研究開発と社会定着の推進方法を提案する。また、CPSは、具体的な事例に基づいて、課題解決を実践していくことが重要であるので、具体的実例として、「高齢者の社会活動参加促進」を取り上げ、CPS の具体的適用方法、期待される効果、普及の制約要因等について検討する。
 「高齢者の社会活動参加促進」という実例を取り上げ、そこでの課題解決を実践することによって、CPS を社会システムとして定着させるための研究開発を提案する。この実例を取り上げる理由は、労働はもとより、文化活動を通じて、元気な高齢者が生き生きと社会活動に参加することにより、労働力の確保、QoLの向上、医療費や介護費の削減などを実現することが我が国にとって喫緊の課題となっているからである。
ここでは、特に上述の共通基盤技術の整備、総合的な研究開発に加えて、高齢者の社会参加を可能にするために、一つの社会活動をいくつかの要素に分割し、それらを条件に応じて複数の高齢者に割り振ることによって、複数の高齢者によって、全体として一つの社会活動が実現されるというCPS を提案している。CPS によって時間・空間・スキルの不整合を調整し、全体として他者との協働、連携による社会活動を行うことが可能になる。このようなCPS を実現することによって、高齢者のみならず、広く一般の社会参加機会を増大し、さらには新産業の創出に結び付くと期待できる。
具体的な共通的研究開発項目は、
1.人(高齢者)を含むCPS のモデル化を実現する情報アーキテクチャ、2.CPS の多様な連携を可能とするシステムアーキテクチャ、3.サイバー犯罪も考慮した社会基盤としての信頼性の確保である。
新しい社会システムは社会に実装して初めて効果を上げる。しかし、効果を上げるには時間がかかる。また、導入当初は経済性が成り立たない場合もある。そのため、国や自治体による長期にわたる安定的なファンディングが必要になる。一方では社会自身が変化していくことから、固定的な内容の研究開発を続けることが得策ではないこともある。環境の変化や技術の進展に応じて、研究開発内容を適切に変更しうる実行体制を構築しなければならない。