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G-TeC報告書「iPS 細胞を巡る国際動向と今後の研究展開」
エグゼクティブサマリー
第4期科学技術基本計画(2011年8月に閣議決定)の中で、成長をもたらす原動力として「ライフイノベーション」及び「グリーンイノベーション」という二つの柱が明確に位置付けられた。科学技術によるイノベーションを重視する動きは、欧米先進国に共通して見られる。こうした流れの代表として、ライフイノベーションにつながる「iPS細胞(Induced Pluripotent Stem Cells;人工多能性幹細胞)」の動きが注目される。京都大学・山中伸弥教授のグループが、受精卵や胚性幹細胞を用いずに、体を構成する全ての組織や臓器に分化する可能性を持つ万能細胞を初めて作り出した。2006年にマウスの線維芽細胞(皮膚の成分を作る細胞)から、2007年にヒトの線維芽細胞から、iPS細胞を作成することに成功している。その結果、iPS細胞を含む幹細胞を用いたライフイノベーションへの期待が大きく高まった。各国・地域でのメディア報道に象徴されるように、生命倫理上の障壁が低く、患者自身の体から作れるために拒絶反応を抑制できるiPS細胞は、再生医療の切り札として社会の注目を集めている。加えて、生命の仕組みの解明、疾患研究や創薬など、基礎研究から臨床研究、さらには産業応用につながる幅広い活用が期待されることから、科学技術によるイノベーションをもたらす有望な選択肢として、研究開発の促進・強化が求められる。
そこで、以上の背景に応えるため、「iPS細胞を巡る国際動向と今後の研究展開」をテーマとする「GーTeC(Global Technology Comparison)」を行った。GーTeCは、重要な科学技術動向に焦点を当て、各国・地域の状況を分析することで日本のポジションを確認し、今後取るべき戦略の立案に貢献することをミッションとする。
調査には、公開情報に基づく基礎調査、米欧での海外現地会合などの手法を用いた。第一に、文献・特許データなどをもとに、各国・地域における注目機関を特定した。第二に、特定した機関との会合を持ち、iPS 細胞を巡る研究動向を追跡した。第三に、会合結果を踏まえ、「iPS細胞をイノベーションにつなげるシナリオ」を構築するための要件を抽出した。その上で、第四に、現地会合後の各国・地域の状況をフォローすることで、抽出した要件の妥当性を分析した。