- 材料・デバイス
産業競争力強化のための材料研究開発戦略
エグゼクティブサマリー
本戦略イニシアティブでは、我が国の大学等で現在行われている材料関連の基礎研究に、産業の国際競争力強化を明確に指向した新たな方向性を付加するための戦略として、「産業競争力強化のための材料研究開発戦略」を提案する。
大学等における研究は、一般的傾向として研究者の興味や関心に基づくものが多く、産業競争力強化のための戦略性があるとは言いがたい。一方、産業界は、大学等での基礎・基盤研究に対する期待は大きいものの、短期的な利益を重視せざるを得ず、また開発の初期段階では、お互いに競争する関係にあるため、統一的な長期的戦略を大学側に示すことは困難である。
このような状況を克服するため、JST研究開発戦略センターでは、「国際競争力強化のための研究開発戦略立案手法」を開発※1)し、それを材料開発分野に適用し、さらに「物質・材料分野」俯瞰ワークショップ※2等の議論も参考にしながら、今後戦略的に取り組むべき研究開発課題を以下のとおり抽出した。
【A】各産業群から抽出された次世代システム
エネルギー系産業群・環境系産業群
次世代システム1 : 水素生成と炭酸ガス固定化
次世代システム2 : 微細藻類によるバイオ燃料生成
次世代システム3 : 持続的な水の獲得と評価・モニタリング
次世代システム4 : 環境配慮設計(DfE:Design for Environment)
資源開発系産業群
次世代システム1 : 工業基幹原料の多様化
次世代システム2 : 低品位・二次資源からの金属・無機原料研究開発
情報通信系産業群
次世代システム1 : ナノエレクトロニクス・デバイス技術
次世代システム2 : ナノエレクトロニクス・プロセス・実装技術
機械・精密機械系産業群
次世代システム1 : 人間代替ロボット
次世代システム2 : 自律分散型・低エネルギー消費型機械システム
次世代システム3 : 生体適応・自律分散医療デバイス・システム
輸送系産業群
次世代システム1 : 燃料電池自動車
次世代システム2 : 新型電池を用いた電気自動車
次世代システム3 : 軽量カー
【B】横断的な重要要素材料技術
(1) 空間空隙制御・利用材料技術
(2) 軽量化技術
(3) 融合分子材料技術
(4) 界面・表面の制御・形成
(5) サーマルマネージメント
(6) コンポジット材料
ここに挙げた各産業群からの研究開発に対する要求には、将来へ向けた産業競争力の更なる強化のために優先的に投資すべきテーマが網羅的に記述されている。これらに対し研究開発投資を行うことによって、より効率的な資金配分が可能となり、目的基礎研究から得られる成果の速やかな産業競争力への貢献が期待される。技術課題や要素技術を抽出する際に重要視したのは、「将来目指すべき社会像」ではなく、あくまで、「強い産業をより強くするために必要な公的投資」、「将来の産業競争力のための先行的な公的投資」 の2つの視点である。
ここでは、将来の各産業へ向けた研究開発を産業界にだけ任せるのではなく、産業界以外で取り組まれる研究開発に対して要求される重要項目を提示した。これを実行することにより、企業における研究開発に直接期待することが難しい、新たなブレイクスルーの実現、知識の創出等が期待され、我が国における産業の国際競争力維持・強化に貢献することが可能となる。
研究開発の成果を産業競争力により早く繋げるためには、極めて多方面からの取り組みや検討が必要であり、また、研究開発を行う分野や目指すべき特性・機能も様々である。本提案では、産業競争力強化のための要求を明確に大学等の研究者へ提示することにより、これまで必ずしも系統的に行われてこなかった産業側から大学等での基礎研究への要求伝達を円滑に行い、研究開発の目的を明らかにし、それらを通して基礎研究と産業との結びつきを強めることを目指している。
※1)戦略提言「国際競争力強化のための研究開発戦略立案手法の開発-日本の誇る「エレメント産業」の活用による『アンブレラ産業』の創造・育成-」
※2)JST研究開発戦略センター 「物質・材料分野」俯瞰ワークショップ-ナノテクの成果・融合の効果・今後の課題-報告書 CRDS-FY2008-WR-05