研究開発の俯瞰報告書 環境・エネルギー分野

エグゼクティブサマリー

近年、持続可能な社会への取り組みは、地政学的緊張と経済・社会要因(エネルギー価格高騰、物価上昇、COVID-19で顕在化した供給網の脆弱性)の複合作用により一部に停滞・後退が見受けられる。こうした状況の中、エネルギーの安定確保とカーボンニュートラルの両立が改めて国際社会に問われている。

エネルギー分野では、技術中立的な視点から多様な技術開発を進め、個別技術を有機的に連携させて社会実装につなげることが重要である。日本の電力供給では、高変換効率セルやその設置場所拡大を目指した太陽光発電や浮体式風力発電などの再生可能エネルギーの導入と、ベース電源としての原子力の活用が自給率の改善に寄与している。CO2を排出しない水素やアンモニア燃焼火力発電は柔軟な出力調整特性をもつ技術として研究開発が進められている。電源構成全体の安定性を支える役割が期待される。さらに、AI技術の急速な発展に伴い、データセンターの電力需要を押し上げており、供給力の確保、需要側の柔軟性向上、系統増強、廃熱の有効利用などを含む包括的な対応が求められる。産業・運輸分野では、電化の推進に加え、水素、アンモニア、合成燃料、バイオ燃料の合成・利用技術の開発をコスト面に配慮しつつ進められている。残存するCO2排出にはCO2回収・貯留(CCS)や自然の力を活用したネガティブエミッション技術の開発が進行中である。

環境分野では、観測・予測技術の高度化、資源循環に向けた革新的技術の創出、汚染物質への対応など、多面的かつ統合的な取り組みが必要となる。水・大気・土壌の保全では、有機フッ素化合物(PFAS)などの新興汚染に対し、AI・IoTによるモニタリングの高度化、環境分析・リスク評価が進展している。地球システム観測とAIや統合モデルの活用が気候影響評価と適応策の高度化に貢献している。自然の浄化機能や生態系サービスを活用するNature-based Solutions(NbS)は持続可能な対策として注目されている。資源循環では都市鉱山、排水中の希少金属、大気中CO2、工場や上下水処理施設からの排熱など、未利用資源や副次的エネルギーを改めて資源とみなす「資源再創出」の概念が重要性を増している。

今後の技術開発と制度設計においては、トランジションに伴う不確実性への対応が重要課題となる。新技術の創出から社会実装までの道筋を明確化し、柔軟な制度設計とシステム構築を進めることが不可欠である。

環境・エネルギー分野の研究開発は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて中核的役割を担う。持続可能な社会と健全な地球環境を将来世代へ継承するため、多様な課題に対し、革新的技術の創出と社会実装を加速することが求められる。

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