高度経済成長期に一斉に整備が進んだ全国の道路や橋梁・トンネルなどの社会インフラが寿命を迎えつつあり、崩落事故等も発生している。適切な補修・更新に向けたマネジメント政策が必要。
背景
我が国では1950~70年代の高度経済成長期において、道路や橋梁、トンネル、上下水道などの社会インフラ整備が飛躍的に進み、国内経済の安定的発展を支えてきた。しかし、建設から50年以上経過する施設の割合が加速度的に増加しており、これらインフラの老朽化が顕在化し社会問題化している。
一方で、インフラの補修や更新に関するマネジメント政策は、ベテラン技術者の長年の経験・勘と知識に大きく依存している現状があり、財源や人員等が限られる中、補修や更新に向けてのリソース配分に大きな課題がある。科学的エビデンスに基づく政策形成のための方法論を確立させ、経済的合理化を図ると同時にインフラ利用者の安全・安心を確保していくことが重要である。
研究開発のアプローチ
本プロジェクトでは、ベテラン技術者が蓄積してきた点検ビッグデータを用いたデータサイエンス技術によって、橋梁・舗装・下水道・斜面・法面などの老朽化インフラの補修・更新時期を予測するための方法論を開発した。また、劣化予測結果とそれに基づくライフサイクル費用評価を活用することによって、老朽化インフラに対するマネジメント政策を形成するためのプロセスを構築した。
成果
研究成果は大阪市や国土交通省近畿地方整備局、NEXCO西日本等の様々なステークホルダーに活用された。たとえば、大阪市と連携し実施した下水道コンクリート管渠の更新計画立案においては、約5万か所の目視点検ビッグデータを基に、大阪市内の全コンクリート管渠115,050本の統計的劣化予測を行った。これにより、コンクリート管の期待寿命が約82.2年と判明したほか、管ごとのばらつきが大きいことも判明。海に近い地域から劣化が進んでおり、その地域から補修していけば現状の機能を維持できることを示した。さらに大阪市全域のコンクリート管渠の劣化状況の経時的変化を予測するマッピング技術を開発し、大阪市の施策判断のための客観的根拠を提示するなど、科学的エビデンスに基づく政策形成に貢献した。
また、国際協力機構(JICA)との連携により、ミャンマーにおける地域間の貧困格差を是正するための生活基盤インフラ整備プロジェクトにおいて、低廉な簡易舗装道路の劣化予測などに活用されているほか、エチオピアやネパールなどのアフリカ・東南アジア諸国での活用が検討されている。
科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム※ ※本プログラム(第2期)における研究開発予算規模(直接経費):1プロジェクト 5百万円以下/年 プロジェクト実施期間:2019年10月~2023年3月 |