さまざまな研究開発成果(概要紹介)

2021年5月18日

  • 所属・役職は研究開発プロジェクト終了当時のものです。

「釜石の奇跡」として実を結んだ、「動くハザードマップ」と防災教育

研究開発・実装責任者:片田 敏孝(群馬大学大学院 工学研究科 社会環境デザイン工学専攻 教授)
「安全安心」研究開発領域/研究開発成果実装支援プログラム

 予想される津波の被害範囲や程度を、発生からの時間順に地図上で確認できる「動くハザードマップ」を開発。防災啓発活動のため、複数の自治体と連携して防災教育活動に取り組みました。その自治体のひとつが、釜石市です。平成23年の東日本大震災で釜石市も大きな被害を受けましたが、8年間にわたる防災訓練を重ねてきた市内14校の小中学校では、約3,000人のうち99.8%の子どもが生き延びました。「釜石の奇跡」と称された出来事です。


震災当日、学校から避難する子どもたち。
高学年の生徒が低学年の児童の手を引いている。

震災で、水害・火災で、取りこぼしの無い被災者支援を目指す、「被災者生活再建支援システム」

研究代表者・実装責任者:林 春男(京都大学 防災研究所 巨大災害研究センター 教授)
「情報と社会」研究開発領域/研究開発成果実装支援プログラム

 RISTEXで開発と実装の一端を担ったこのシステムは、建物被害の程度を正しく認定し罹災証明を公平にスムーズに発行できる仕組みです。さらに、台帳をデジタル化し、市から被災者へ生活支援の申請を働きかけることで、スピーディで取りこぼしのない支援を目指しています。このシステムは、既に東京都特別区12区をはじめ各地で導入されているほか、平成28年度は、熊本県内の市町村や、糸魚川大火でも活用されました。

  • 実装活動は平成24年4月より田村圭子氏(新潟大学 危機管理室 教授)に責任者を交代


平成24年9月に行われた東京都総合防災訓練会場での罹災証明発行訓練の様子

被災地の集団移転サポートを通じて、コミュニティ・レジリエンス(回復力)論を実証

研究代表者:石川 幹子(中央大学 理工学部 人間総合理工学科 教授)
「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域

 東日本大震災で大きな被害を受けた、宮城県岩沼市玉浦地区を含む仙南沖積平野。その集団移転をサポートしつつ、復興の道筋や都市・地域計画の策定に関わる手法を開発・実証。住民ひとりひとりの意見を丁寧に吸い上げながら進められた「いのちを守る沿岸域」の再生への取り組みは、NHKスペシャルで数回にわたり報道され、大きな反響を呼びました。また、日本学術会議へ提出された「提言」は議論を深めて公表され、復興のありかたに大きな影響を与えました。


ワークショップ成果としての街づくり計画

バランスの崩れ(重心)を検知し、警告。トレーラーや大型車の横転事故を防ぐ

研究代表者・実装責任者:渡邉 豊(東京海洋大学 海洋工学部 教授)
「社会システム/社会技術論」研究領域/研究開発成果実装支援プログラム

 海上コンテナを積載したトレーラートラックは、重心の高さや積荷の偏りにより、法定速度で走行していてもカーブで横転事故を起こすことがあります。そこでこの研究では、実際にトレーラーを横転させてみることで、横転のメカニズムを解明。船舶の重心計算の方法を応用(逆関数化)し、トレーラーをたった30秒まっすぐに走らせるだけで横転危険速度が計算できるシステムを完成させました。その後、音声警報機能を追加しドラレコとGPSとも融合。今後は大型車の自動運転に欠かせないシステムとして、国内外で広く社会に普及することが期待されています。


トレーラートラック横転限界速度予測システムのジャイロ

発達支援の必要な子どもの早期発見システムを開発、母子手帳に取り入れられる

研究代表者・実装責任者:神尾 陽子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童思春期精神保健研究部 部長)
「脳科学と社会」研究開発領域/研究開発成果実装支援プログラム

 この研究開発では、某自治体の乳幼児健診と連携して5年間にわたるコホート研究を行い、発達支援を必要とする子どもたちを早期に発見・支援するシステム(M-CHAT)を開発し、事業化に成功しました。さらに、支援ニーズのある子どもに最も身近な地域の保健師や小児科医に向けた学習ツールを開発し、普及に努めました。平成24年にはM-CHATの1項目が母子健康手帳の1歳児欄に、平成26~27年には乳幼児健診の保健指導テキストにも採用されました。さらに社会性の早期発達の理解定着の指標として「健やか親子21」第2次計画(平成27~36年度)の重点課題にも活用されています。


e-ラーニングを活用した専門家向け学習ツール

手足が不自由でも車を運転できる、ジョイスティック・システム

実装責任者:和田 正義(東京農工大学大学院 工学研究院 准教授)
研究開発成果実装支援プログラム

 身体障害者用自動車運転装置の開発・製造で40年以上の実績を持つニッシン自動車工業(現:㈱ミクニ ライフ&オート)とともに、手足に力の入りにくい重度障害者でも運転可能な、ジョイスティック式の自動車運転システムを共同開発しました。この研究開発は、平成27年度文部科学大臣表彰の科学技術賞を受賞しています。なお、運転者が改造後の車で運転免許を取得するために、教習所やリハビリテーションセンターの協力のもと、支援体制モデルを実現しました。


ジョイスティック2 本タイプの運転システム。
ハンドル操作に伴うウィンカー、ホーン、ブレーキロックスイッチなどの操作がジョイスティックの周辺で行えるようになっている。

地域にあわせた「楽」で「楽しい」営農スタイルの構築

研究代表者:寺岡 伸吾(奈良女子大学 文学部人文社会学科 教授)
「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」研究開発領域

 柿農業が盛んな奈良県下市町で、高齢者が「楽に、楽しく」長く続けられる農業のあり方を検討し、中山間地域の持続可能性を高めることを目指して研究開発に取り組みました。社会学的に地域の問題を洗い出す「集落点検法」や、身体に負担をかけない柿の農法、高齢者に使いやすい電動農機具の開発、柿農業特有の身体の問題を解消する体操など、様々な視点からの成果を生み出しました。これらの活動は、平成26年度第2回プラチナ大賞優秀賞を受賞。また農業大国トルコへ招待されるなど、国内外で広く注目を集めています。

プラチナ大賞優秀賞受賞

開発した「らくらく電動一輪車」
安心・安全で楽しく操作、しかもパワフル

「使いやすさ」を求めて、高齢者・企業・研究者が協働する場「みんラボ」

研究代表者:原田 悦子(筑波大学 人間系心理学域 教授)
「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」研究開発領域

 高齢者の「使いやすさ」をテーマに、高齢者と企業、研究者が対話できる場として、「みんなの使いやすさラボ(通称・みんラボ)」を立ち上げました。ここでは、コーディネーターを通じて企業が持ち込んだモノやサービスについて、高齢者がテストに参加し、議論を行います。高齢者にとっては、モノづくりへの社会貢献や地域交流ができる活躍の場であり、企業や研究者にとっては、高齢者との対話を通じて「使いやすさ」への見識をより深めてゆく場です。みんラボの活動は、IAUD(国際ユニヴァーサルデザイン協議会)の2014アウォード・ソーシャルデザイン部門で金賞を受賞するなど、対外的にも注目を集めています。


戦略的イノベーション創出推進プログラムで開発中の生活支援ロボット
システム「PaPeRo」の使いやすさを「みんラボ」で検証中

「電話」で高齢者を見守るシステムを開発・普及、小学校の教科書にも掲載

研究代表者:小川 晃子(岩手県立大学 社会福祉学部 教授)
「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」研究開発領域

 一人暮らしのお年寄りが、自宅の電話から支援者へ、気軽に困りごとなどを伝えられるシステムの開発・普及と、それを活用したコミュニティづくりを行いました。支援者は社会福祉協議会や地域の人々と連携して、地域の高齢者を緩やかに見守りながら買い物サポート等の生活支援を行い、緊急時には通報によって駆けつけることができます。岩手県滝沢村(当時)で導入されたほか、東日本大震災の仮設住宅においても活用されました。これらの活動の様子は、平成27年度から小学5年生の社会科の教科書で紹介されています。


滝沢村(当時)川前地区の取り組み
さまざまな地域団体が連携し、一人暮らしのお年寄りを見守るネットワークを構築。

発達障害者の特性別評価法(MSPA)の医療・教育・社会現場への普及と活用

実装責任者:船曳 康子(京都大学大学院人間・環境学研究科 准教授)
研究開発成果実装支援プログラム

 多彩な症候を呈し個人差も大きい発達障害者の要支援度を特性別に細かく評価し、本人や支援者に一目でわかるレーダーチャートとして表示する評価尺度(MSPA)を実用化しました。発達障害者のライフステージごとの評価支援マニュアルを策定するとともに評価者育成のための講習プログラムを開発し、定期的な講習会による専門家の育成に取り組みました。また、本評価法の医療保険の適応を提案する活動が実を結び平成28年4月に保険収載となるなど、包括的な支援システムの社会実装につながりました。

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多世代参加型ストックマネジメント手法の普及を通じた地方自治体での持続可能性の確保

研究代表者:倉阪 秀史(千葉大学大学院社会科学研究院 教授)
「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域

 地方自治体が人口減少・財政縮小に直面する中、全国1741の基礎自治体別の各種統計データをもとに、自治体における産業構造の変化や公共施設・道路、農地の維持管理の可能性など、約10分野の項目をシミュレーションし、5年ごとの推移をグラフつきで表示する「未来カルテ」を開発。また、多世代参加型で将来予測に基づいた検討すべきシナリオの作成等を行う方法論として「未来ワークショップ」などの手法を開発しました。2017年10月に無料公開した未来カルテ発行プログラムは2万件以上ダウンロードされるという反響があり、未来ワークショップも協力自治体以外の地域や中学校・高校の総合学習で実施されるなど幅広く活用されました。

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分散型水管理を通した、風かおり、緑かがやく、あまみず社会の構築

研究代表者:島谷 幸宏(九州大学大学院工学研究院 教授)
「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域

 現在の集中型水管理システムの課題を解決するため、近年水害が多発している福岡市の樋井川流域を主な対象地とし、「あまみず社会」という都市ビジョンを提案し、流域すべての場所での水の貯留・浸透を良質な緑を増やしながら多世代共創によって行う分散型の水管理システムの手法を開発しました。この手法は東京都の善福寺川流域などにも展開されており、防災面で有効であるだけでなく、地域の生態系を豊かにし、文化価値を高め、コミュニティの活性化にも役立つことから、国際的な注目を集めています。すでにJICAプロジェクトや世界銀行、ラムサールセンタージャパンなどとの連携が進んでおり、国内外に自律的に広まっていくことが期待されています。

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漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生

研究代表者:大塚 耕司(大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科 教授)
「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域

 漁獲量の減少、若者の魚食離れ、漁業者の高齢化や後継者不足などによって漁業の持続可能性が危ぶまれている大阪湾の阪南市をモデル地区として、生産・漁獲・流通・消費という一連のプロセスを総合的に捉えた持続可能なモデルを構築し、環境面・経済面・社会面を統合した包括的評価手法を開発しました。魚あらのリサイクル材を用いた漁場環境の改善、漁協の共創による牡蠣養殖の実現、情報技術を使った新しい水産流通手法の開発、子ども向けの魚食普及イベントの開催、サイバーマルシェの試行などの多面的な取組を、多世代の多様な利害関係者の参加を得て実施しました。今後は大阪湾全域への展開が期待されています。

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伝統的建造物群保存地区における総合防災事業の開発

研究代表者:横内 基(小山工業高等専門学校 准教授)
「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域

 土蔵造りが多く残る北関東の伝統的建造物群保存地区(栃木市嘉右衛門町、桜川市真壁、桐生市桐生新町)において、平時から地域の歴史や伝統文化を活用して多様なステークホルダーとの繋がりを維持する場と、若者や民間団体による空き家再生や生活疑似体験ワークショップ開催など地域の活力を高める仕掛けをつくるとともに、耐震や防耐火に配慮した修理・修景に関するガイドラインの整備、伝統構法を継承するための施工体制の構築、さらには住民参加による防災ガイドラインの作成や総合防災訓練の実施などを通じて、「地域のみんなでまちを守る」という体制づくりを進めました。2015年関東東北豪雨で当該地域は被災しましたが、構築した「つながり」が復旧活動に大きく寄与しました。

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貧困条件下の自然資源管理のための社会的弱者との協働によるトランスディシプリナリー研究

研究代表者:佐藤 哲(愛媛大学社会共創学部 教授)
フューチャー・アース構想の推進事業

 インドネシアやマラウイなど6カ国9地域において、貧困状況下に置かれた人々が、レジデント型研究者や地域NGOなどと協力しながら、自らが直面している課題や持っている知識に基づいて生み出している知恵(内発的イノベーション)を抽出・可視化し、自然資源の持続可能な管理と効果的な活用に適用することで、貧困生活の改善と福利の向上につなげる仕組みの開発と実証を行いました。この手法は、障がい者や生活困窮者など、多様な課題を抱えた人々にも共通するアプローチであることから、他地域や他分野への横展開や応用が期待されています。

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科学技術イノベーション政策の経済成長分析・評価

研究代表者:楡井 誠(一橋大学大学院商学研究科イノベーション研究センター 准教授)
科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム

 マクロ経済モデルを用いて、科学技術イノベーション政策の経済成長に対する効果を分析及び評価するための手法を開発しました。知識生産・人材供給・研究開発投資・知識の国際移転といった科学技術政策における重要な個別施策を対象に、理論に立脚した経済分析を行い、その分析・評価手法とデータおよび基礎的な推定結果をもとに政策提言をとりまとめました。内閣府が実施する国民経済計算体系改訂(08SNA)におけるR&D資本統計の構築とR&D資本減耗率の推計に関与したほか、総合科学技術・イノベーション会議大臣 有識者会合での成果の発表、『季刊国民経済計算』における論文掲載、文部科学省における税制研究会への協力など、具体的な政策立案に貢献しました。

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高齢社会課題解決に向けた共創拠点の構築

研究代表者・実装責任者:辻 哲夫(東京大学高齢社会総合研究機構 特任教授)
「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」研究開発領域/研究開発成果実装支援プログラム

 高齢社会がもたらす課題の複雑性は、画一的な対応では解決できず、それぞれの地域特性にあわせた対応が必要となります。本実装プロジェクトでは、千葉県柏市の地域特性の異なる2地区を対象として、地域住民が主体的に地域課題を向き合う土壌づくりに取り組みました。その活動の結果から、地域課題の解決手法として「政策連携型」と「地域積み上げ型」の2つの実装アプローチモデルを提示しました。また、プロジェクト期間中には、一般社団法人高齢社会共創センター(現 未来社会共創センター)を立ち上げ、高齢社会の課題解決に資する全国各地での事例の紹介、ネットワーキング等実装活動を継続しております。

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