RISTEXでは、令和6年10月11日、SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(シナリオ創出フェーズ・ソリューション創出フェーズ)の全体会議の終了後、有志参加者によるデータマネジメント・ワークショップを開催した。
冒頭、小林傳司RISTEXセンター長は、RISTEXが取り組む学際共創研究(trans-disciplinary research)や研究成果の社会実装を進める際に求められるデータマネジメントの重要性を説明した。続いて川北秀人プログラム総括は、研究を超えてデータの活用が始まる場合や、データを活用する範囲が広がっていく場合、例えば、ステークホルダー間でのデータの共有の方法や、共有に対する同意取得のタイミングなどの課題があると話した。その後、参加者15名は3~4名ずつ4グループに分かれ、2つのワークを実施した。
1. 仮想事例をもとに課題の抽出と対策を議論
最初のワークでは、RISTEXで作成したデータマネジメントに関する仮想事例の動画を見た後に、仮想事例に対する課題と改善策を考えてワークシートに記入し、意見をグループ内で共有した。
<仮想事例>
大学の准教授が、自身が理事を務めるNPO法人における支援データを分析して、アセスメントツールを開発する研究開発プロジェクト。順調に研究が進んでいた矢先、NPO法人にデータ管理が問題ではないかと指摘が入り…
2チームが代表して発表したグループディスカッションの結果としては、大学とNPO法人の間における兼務、データ共有の契約、事業の切り分けなどの問題を中心に、多くの懸念点が挙げられた。また、研究開発にファンディングする側の予見や助言についても言及があった。
仮想事例は、RISTEXに設置されているデータマネジメントに関わる検討を行うアドバイザリーボードの議論を踏まえて作成されている。その議論を踏まえたポイントとして、RISTEXの藤井麻央氏は、①個人が複数の所属先を持っている、②機関間でデータが共有される、③サービスデータが研究に利用されている、の3点について解説した。
小林センター長は、2年前に専門家によるデータマネジメント・アドバイザリーボードを設置して、DMP(データマネジメントプラン)の見直しや記載内容へのフィードバックなどを実施していると状況を説明した。
2. 自身のプロジェクトのDMP(データマネジメントプラン)を見直す
2つ目のワークは「DMPを点検する」というタイトルで、参加者が所属するプロジェクトのDMPをチェックするというものであった。
冒頭、藤井氏から、DMPは欧米の研究助成機関で広がり日本でも導入が進む中、多くの研究者がDMPを作成する状況になりつつあると説明。DMP作成は、プロジェクトを円滑に進めるために、何が必要かを考え抜く機会である点が重要であると考えられるとした。また、研究計画書と同様、DMPも研究の進展とともに都度更新することが望ましく、プロジェクト終了段階にデータ保存を考える際にも利用できると話した。
ワークでは、参加者個人が自身のDMPの作成経験を振り返るとともに、自身が参画するプロジェクトのDMPを見直した後、グループ内で各自の状況を共有した。その後、2グループからの発表が行われた。発表では、
- 機関間でデータ共有にかかわる契約が必要な場合でも、所属する機関からデータマネジメントに対するサポートはあまり受けられなかった。大学などが利用できるチェックリストなどがあればありがたい。
- 現場で活動する協働機関のメンバーが読んでも意味がわからない記述は、プロジェクト内で見直すべきではないか。
といった意見が出た。
川北総括は、データマネジメントに関するチェックリストや、機関間の契約書の雛形の作成も考えられるが、研究領域や研究テーマが多様で共通項目を抽出することが難しい面もあると説明。「各プロジェクトの参加者に不安や懸念点を相談してもらうことで課題が顕在化し、アドバイスもしやすくなる。RISTEXのデータマネジメント・アドバイザリーボードの力も借りながら、プログラムとして検討を続けたい」とコメントした。
小林センター長は、「大学には多様な研究手法による多様なデータが蓄積されている一方で、データをマネジメントできる人材は不足している。各大学でのデータマネジメントの事例を共有していくことや、URAなどの研究支援職にデータマネジメントに理解を深めていただくことが重要だろう」と締めくくった。
データマネジメントにかかわるワークショップは、RISTEXとして初の試みであったが、参加者からは、「DMPの位置付けについて認識を新たにできた」「自らのプロジェクトの課題を見直す良い機会となった」「機関により研究倫理に関するサポート体制が大きく異なることが理解できた」といったコメントが寄せられた。