「社会技術」:科学知を使用(use)するという視点~好奇心からはじまる科学知を社会につなぐ~

吉川弘之×小林傳司

〈RISTEX20年ふり返り対談1〉吉川弘之×小林傳司 2021年12月14日 於・東京/オンライン

RISTEXがかかげる「社会技術」とは、2000年に当時の科学技術庁に設置された「社会技術の研究開発の進め方に関する研究会」で具体化が進んだコンセプトである。この研究会の座長を務めた吉川弘之氏は設計学・デザイン学というご自身の専門領域の特徴を科学技術全般に応用し、科学知を「使用する(use)」ことにより社会課題の解決に取り組む、という研究のありかたを「社会技術」と表現した。その後も、社会技術の重要性を理論化しつつ論じる、社会技術のキーパーソンであり続けている。今回、対談企画の第一弾として、社会技術の20年をふり返っていただいた。

吉川弘之

吉川 弘之(よしかわ ひろゆき)

東京大学総長、日本学術会議会長、国際科学会議(ICSU)会長、JST研究開発戦略センター長などを経て、現在、東京/大阪国際工科専門職大学学長、東京大学名誉教授。著書に『本格研究』『科学者の新しい役割』『一般デザイン学』など。

「社会技術」という発想とその背景

小林:今回は社会技術研究開発センターの前身である社会技術研究システム設立から20年ということで、「社会技術」を吉川さんとふり返りたいと思います。この「社会技術」という社会課題への取り組み方の概念化において、重要な役割を果たされた吉川さんと対談ができること、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大という未曾有の事態ながらオンラインツールを利用してお話できることを感謝いたします。
さて、「社会技術」という言葉ですが、RISTEXの英語名称、Research Institute of Science and Technology for Societyは、「社会技術」の直訳ではないですよね。特に「Science and Technology for Society(社会のための科学技術)」というのは、明らかに1999年のブダペスト宣言の影響があるように思いますが、吉川さんは、ブダペスト宣言に関わっておられましたよね?

吉川:私は、ブダペスト会議※1のオープニングセッションで招待講演を引き受けたのです。ブダペスト宣言というのは、この会議の後にまとめられたのですが、その表題が「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言(Declaration on Science and the Use of Scientific Knowledge)」といって、「利用(use)」という部分が大事だった。私は設計学をやってきたので、いかに科学知識を「利用する」のかという話をしたのですね。

小林:そうなんですか。当時、吉川さんは日本学術会議の会長としてもご活躍でしたが、この頃国際科学会議(ICSU)※2の会長になられたのですよね。

吉川:1998年に当時のICSU事務局長から依頼があったのです。その頃のICSUは、基礎科学の人たちが中心で、工学はほぼオブザーバーだったので断りましたが。しかしその後、当時の米国科学アカデミー(NAS)のブルース・アルバーツ会長とロンドンで会うことになり、「ICSUは社会との関係を深めなければならない、今の科学は分析型が主流で、それを社会にどう応用すべきか、ということに学問として取り組めていない、工学の考え方がこれから大事になるからICSUを手伝ってくれ」と頼まれてしまった。私は、行政改革の影響を受けていた日本学術会議のほうで忙しかったのですが、1999年初夏にICSU会長候補になったという連絡がきて、9月にエジプトで開催された会議で選ばれてしまったのです。当時の日本の感覚では、私のような工学の人が入っているのは「おかしい」。だけど、海外では既に、工学と理学の分離に対して問題意識を持つ人たちが出てきていたのですね。

小林:なるほど。日本語では「科学技術」とひとくくりにして語られやすいけど、英語ではscience and technologyと、「理」と「工」が常に分かれている。でも実態としては、そこを知識の「利用」によってつなげて、社会的な課題に対応するという流れが生まれてきていたのですね。

吉川:ICSUでやった仕事でよかったと思うのは、20いくつあった具体課題に取り組むICSUファミリーという専門の委員会を8つに統合したことです。それぞれ関心事が違うので大変でしたが、社会はもっと全体的な提案を求めている、と言って、総会で3日かけて統合したのです。その8つにまとめられた委員会が全部集まって、のちに「フューチャー・アース」をつくることになりました。

小林:ああ、なるほど。異分野間でどう協力して、地球規模の問題の解決に取り組むかという、そういう流れが作られていたのですね。

吉川:環境問題についての研究、特に基本的な考え方をつくった人はアメリカに多いですね。アメリカは、環境の悪化の要因のひとつでもあるけれど、それを抑える科学においてもリーダーだった。例えば、オゾンホールへのフロンガスの影響の研究が出た時、それを議会が受け取って、米国科学アカデミー(NAS)に検討をお願いしたのです。そして、実際に理論やデータから確証を得てから国際的に主導権をとって禁止条約を作っていくのです。このような科学者と政治が協力する歴史的な流れと共に、学術界では新しい科学をつくろうというムーブメントがあった。「環境」というものが、基礎科学の研究対象のひとつになるのだ、という考え方です。その中に、のちに米国海洋大気局(NOAA)の局長になるジェーン・ルブチェンコ(Jane Lubchenco)がいた。彼女は、国の研究所に属していても科学者は自治の権利を持っているから、条件付きでも自由な発言をすべき、と論じました。

小林:ルブチェンコは、「科学のための社会的契約(social contract for science)」と言った方ですよね。

吉川:そうです。科学者は自治を主張してやりたい研究を各々やっているが、公的な資金で研究活動をしているのに、今人類が抱えている大問題になぜ取り組まないのか、その知的好奇心が倫理的な問題に向かない研究者が多いがそれでいいのか、科学が何に使われるかを考えることも知的好奇心であり、したがって社会が欲する科学をつくるのもまた基礎研究と呼んでいいのではないか、という問題提起をしたんですね。米国科学振興協会(AAAS)の会長挨拶で表明したものが、その後Science誌に掲載されて※3、非常に大きなインパクトをもたらした。彼女は、私のあとICSUの会長になったので、1年半一緒に仕事をしましたが、温厚な人でしたね。

小林:学術知を社会のために使うことが重要、という認識が世界レベルで広がっていたなか、日本では2000年に、「社会技術の研究開発の進め方に関する研究会」が設置されました。吉川さんが座長で、石井紫郎さん、岡本浩一さん、児玉文雄さん、佐藤征夫さん、鈴木篤之さん、馬場靖憲さん、村上陽一郎さん、吉田民人さん、とそうそうたるメンバーですね。

吉川:非常に印象的な研究会でした。大変充実した議論をした記憶があります。

小林:この研究会の報告書を見ると、まず「社会技術」をこう定義しています。「従来の自然科学を中心とする技術的知見のみならず、個人や集団の本性や行動等を対象とした人文・社会科学の知見を結集し、科学技術と人間・社会の新しい関係の模索をも念頭に、科学技術と社会との調和を図っていく必要がある。このような『自然科学と人文・社会科学の複数領域の知見を統合して新たな社会システムを構築していくための技術』を『社会技術』としてとらえることとする」と。改めて読むと、今でも通用する内容です。ちょうど今年度(2021年度)から、第6期科学技術・イノベーション基本計画が始まり、そこで「総合知」という表現がありますが、社会的な課題に取り組もう、文理融合を推進しようと、当時の吉川さんたちの委員会で議論されたこととほぼ同じ内容で、当時の議論の先見性を感じると同時に、現状をどう考えればよいかと思ってしまいます。

吉川:なるほどね。まあ、こういう議論もようやく公的に認められ始めたということでしょうね。
あの委員会の頃は、原子力関連の事故が続いて※4、原子力研究への批判が強まっていたので、できるだけ丁寧に客観的に分析して、将来をより良くしていくシナリオを考える必要がありました。なぜ原子力でこういう問題が起こるのか、現代のさまざまな社会問題と併せて議論できるような研究をつくるべき、と提言したのです。

小林:なるほど。ただ、「社会技術」や「文理融合」のとらえ方は、人によってかなり違っていたようですね。

吉川:「社会技術」のとらえ方は大きく分けると二つあって、社会に対応することを目的として学問を構築する、という発想をする方もいましたが、私は、学術を営む基礎研究者が、得られた学問的な知識を社会問題の解決に使用(use)する場面を扱う基礎的な学問の研究ということを考えた。つまり、自律的な基礎研究を行う研究者の現代的な知的好奇心というのは、分野を超えて取り組むべき地球や社会全体の問題へも向くべきものであるし、それは現代の学術の責任でもある、という考え方です。
もう少し詳しく言うと、自然科学には、それを使用した「技術」がありその学問がある。ならば、社会科学で解明されているさまざまなことを社会に応用して問題解決に使用したり、政策をより合理的にする、そういう技術もあるはずで、それこそが「社会技術」であり、その背後に学問が必要、ということです。そして、自然科学と社会科学の融合は難しいが、それぞれの応用部分、目的に関するところでは共通の言葉があるから、融合も可能なはず、と考えたのですね。

小林:なるほど、おもしろいですね。つまり「社会技術」というコンセプトを提唱された背景には、日本の学問のあり方を変えたいというメッセージがこめられていたのですね。


※1 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)と国際科学会議(ICSU)の共催によって、1999年6月26日から7月1日にハンガリーのブダペストで開催された国際科学会議。この会議で「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言(ブダペスト宣言)」が採択された。
※2 1931 年に設置された非政府かつ非営利の国際学術機関。科学技術の国際協力を進めるとともに、科学技術に関する課題について政府や社会への助言を行う。2018年に国際社会科学評議会(ISSC)と合併し、国際学術会議(ISC:International Science Council)となった。
※3 Jane Lubchenco (1998) "Entering the Century of the Environment: A New Social Contract for Science" SCIENCE Vol 279: 5350, pp. 491-7.
※4 1997年3月、動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設で火災が発生し、37人が被曝した。また、1999年9月にはJCO社の核燃料加工施設で臨界事故が発生、被曝によって2名が死亡した。当時原子力に関する研究を担っていた日本原子力研究所は2005年に解散し、日本原子力研究開発機構となった。

社会技術にまつわる課題と共通言語としての機能性への着目

研究開発戦略センター(CRDS)センター長当時

公開シンポジウム「ブダペスト宣言から10年 過去・現在・未来─社会における、社会のための科学を考える─」(2009年)。
研究開発戦略センター(CRDS)センター長当時。

小林:こうした経緯で2000年前後、国際的に「知識の使用(use)」という論点が焦点化し始めました。グローバルには地球規模課題への取り組みの必要性の認識があり、それへの対処が動機となって「社会技術」という発想が生まれ、RISTEXという特徴的な拠点の形成につながった。日本の応答の一つのかたち、と言いましょうか。

吉川:そういうことですね。科学者として変える責任があると思ったのですね。

小林:その社会技術の研究のやり方について、吉川さんのお考えをもう少しお聞かせください。同報告書の「研究体制の基本的な考え方」においてトップダウン型、ボトムアップ型、そして両者の相互コミュニケーションと多様な体制案が記載されています。トップダウン型で研究者を確保して推進するかたちの研究は、RISTEXも最初は「ミッション・プログラム」という枠組みではじめましたが、その後、組織再編があり、今はファンディング事業が主になっています。ボトムアップ型については、市民や有識者に広くアンケート調査をしたり、広範な層からの意見を踏まえて課題を公募する、といったことが記載されていて、今でも公募テーマの探索をする社会問題の俯瞰調査としてRISTEXに残っています。

吉川:そうなんですか。社会技術の研究支援というのは非常に難しいところがありますね。例えば、若手が論文を書きづらい。勝手に実験やってデータを取る、というものではないですからね。

小林:若手の悩みのひとつは今もそこにありますね。社会課題に対して志をもって研究したいという若手研究者はいるんですが、評価につながる論文になりにくい。だから、社会技術に絡むと面白いけれど、研究者の道としてはリスキー、という側面がありますよね。

吉川:大学に就職している研究者はいいけれど、それ以外の人の社会的な受け入れがない、学術を国、地域レベルで育てていくエコシステムがない、というのは大きな問題ですね。研究支援にしても、国、産業、財団による研究費がありますが、英米では財団による研究支援が大きくて、それが新しい学問を拓くことにつながっている例もあります。日本の科学研究費助成事業(科研費)だと、論文を書いて業績を蓄積するという従来型の研究が推進されるし、産業界からの研究費は、産業には役立つものの学問的な新規性は薄まりますね。財団による研究費としては、例えば米国のビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団や英国のウェルカム財団などが、人道的な基礎科学など、新規的な研究に大きな額を出して推進している。こういう財源があると若手が自由な研究をできると思いますが、日本だと財団からの研究費は規模が小さいことが課題ですね。

小林:そうですね。AIとかバイオの研究が社会に入っていく際に、何が起きうるかを、ちゃんと文理融合的に議論しようとする流れがあって、ここ10年くらいでは大学に閉じない、いろんな立場の人が参加する研究センターが世界各国でできています。ところが、日本では、大学の中にさえそういう横串を刺すような研究センターがほとんどない。RISTEXは多少その役割を果たしていますが、規模が違います。

吉川:RISTEXには期待していますが、それだけなく社会的な支援も欲しいですね。社会に科学技術を出そうとするわけですから、最初から理系と文系が融合した分野をつくらなきゃいけないはずです。企業にもそういう考えの人はいますし、やればできるだろうけど、学術界にはそれに対するインセンティブがない。

小林:吉川さんが従事なさってきた設計学、デザイン学というのはそこを目指しているんでしょうね。そもそも工学はそういうことを目指していた。ただ、日本は、先進国がつくってくれたモデルや基準に合わせて素早くスペックを上げるのは上手ですが、社会課題に対して新しい解き方の標準をつくる、という発想にはならないんですね。

吉川:ならないですね。関心というか、知識がないのですね。思考形式が、いわゆる抽象水準で考えることができなくて、モノがないと考えられないようなところがあるのでしょうね。ここは本来デザインの本道だと思います。2020年に『一般デザイン学』という本に書きましたが、物質系や存在系に入る前に、「機能」の観点から様々なものを考えてみよう、と。機能性の理論化をすると、モノをつくるというときに、機能の種類が違うだけで根底にあるものは同じだと気づく。最終段階で物理系に変換する時に、個々の具体なモノになるのですが、その根本にある「機能を考える言葉」というのは共通しているのではないか。それは文も理もないですよね。

小林:そうですね。機能性(functionality)に着目するなら、ある機能の担い手となる材料(material)が何であるかにとらわれる必要がなくなるので、個々のモノにしばられない、ということですね。例えば、「計算する」という機能に着目するなら、その担い手がタンパク質であろうがシリコンであろうが同じ、という話ですね。社会技術の発想として重要な気がします。

知的好奇心の追究と、社会に根ざした研究

オンライン対談の様子

オンライン対談の様子

小林:いわゆる社会技術の特徴を捉えた具体事例としては、どんなものがあるでしょうか。

吉川:例えば、東日本大震災後、社会学者の似田貝香門さんが、被災地で調査をしているのですが、現地の人々は被災時のことを語りたがらない。だけど、足湯をボランティアで提供しているあいだに、自然と発話することがある。その「つぶやき」を書き記して分析する、ということをなさっています。このアプローチはとても社会技術的ですね。
現在まだ収束していないCOVID-19にしても、地球上の人流、グローバリズムの結果である側面もあって、グローバリズムを問い直す機会になっているのではないでしょうか。「経済か命か」と選択が迫られていますが、経済の回復を、新しい経済学を使って丁寧に検討する。感染を加速させない、という条件での経済政策を、経済学者が社会技術として考えることなどは、今対象にするべき課題に思えます。

小林:なるほど。ありがとうございます。

吉川:RISTEXはこれまで大変難しいテーマに、取り組んできたという実績がありますが、これを社会に役立つ研究の原型として整理して発信していくことができたら、RISTEXなるものの存在意義をもっと認知してもらえるのでしょうね。それから、領域やプロジェクトを越えたコミュニケーションが重要です。さらに言うと、所管する省庁間のコミュニケーションが課題で、前のプロジェクトが終わるとそのまま忘れられてしまう。そうならないよう、時間的な連結を確保するためにも、記録を残して蓄積していくことは大切ですね。

小林:そうですね。プロジェクトが終了すると切れてしまう、次に始めるときは、またゼロから、ということは、ぜひ回避できるようにしたいですね。最後に、これから社会技術に取り組む人たちへ向けてメッセージをいただけませんか。

吉川:やはり自由な研究、体制にとらわれない研究というのはリスクがありますが、野心的に研究できる人がいることは大事です。

小林:研究者というのは、知的好奇心(curiosity)に基づき、かつ自由にやることが大事。しかし同時に、生きている時代の影響は少なからず受けてしまう。だけど、その中から、社会にとって自身の研究がどんな意味を持つのか、ということを考える研究者が生まれてくる。これが一番望ましいあり方だ、と吉川さんはお書きになっていますよね。

吉川:そう。例えば国際会議の場で、私は「What is curiosity?(好奇心とは何か)」と問いかけたんですが、それをみんな笑う。そういうものは定義するものではない、と。ですが、昔は、未知の物質や運動について好奇心を持ち解明しようとしました。それなら、今は、未来の地球がどうなるのかということに対して好奇心を持っておかしくないはずなのです。現代では環境破壊、人口問題、戦争など、解決の困難な邪悪なるものこそが最大の好奇心の対象となるはずですから。そう言って議論が始まった経験があります。
頼まれてやるのではなく、自分の知的好奇心を突き詰め、それに動かされてやる研究というのが大切だと思います。そういう研究は、既存の研究の枠組みに合わないことも多いですが、ぜひこだわってほしい。それは、本当の意味で理念的な、本心から学問で社会を引っ張りたいというものでなければならない。そういうところから未来の学問のあり方、学問によってよい社会にしていく可能性は出てくるのだろうと思います。学問をやれば、それは教育を通じて次世代にも伝わる。だからこそ、そうした研究を継承可能な知識である学問としてどう実現したらいいかを考えなければならない。論文を書いてちゃんと就職するのも大事ですが、やはり自由で良い研究をすること、自分の知的好奇心を突き詰めて、それはいったい何なのかを、しっかり考える研究者になるということを志して生きてほしいと思います。

小林:はい。大変重い、大事な言葉をいただきました。どうもありがとうございました。

対談を終えて

今回の対談では、吉川さんは、長年にわたって学術界のあらゆる場面で中心的な役割を果たしてこられた方ならではのお話を聞かせてくださいました。RISTEXの成立に当たって、その理論的支柱の一つになった吉川委員会、英語名称に反映されている「社会のための科学」という理念を打ち出したブダペスト会議との関わりなど、貴重な歴史を記録できました。特に、「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」というブダペスト宣言の「利用(use)」の意味、重要性を教えていただけたことを感謝したいと思います。冷戦終了後の科学の在り方をめぐって、世界のアカデミアが「use」という概念を軸に様々な議論がなされていたことがよく理解できました。また、往々にして対立するように論じられる「使命遂行型」研究と「好奇心駆動型」研究が、必ずしもそう考える必要はないという吉川さんの指摘が、大変記憶に残りました。この社会に生きていることから生まれる「好奇心」が、真空状態で生まれる「好奇心」ではないことを改めて考えてみたいと思います。
(小林傳司、2022年3月)

「第2次世界戦争が終わった時、私たちは平和を歓迎し、これからは世界が科学的知識を使って豊かで安全な社会を作るのだという希望を持ち、実際にその道を歩んで来たのであった。局地的な紛争や問題があっても、なんとかそれを凌ぎながらの時代を過ごしてきたが、今その思いは裏切られてしまった。地球環境の劣化と温暖化、それによる自然災害の増加、疫病の世界的流行など、世界における対立の激化と格差の増大、そして多くの人の命を奪う恐ろしい戦争の勃発と、数えきれない難問が世界に充満する時代となってしまった。これらの難問は多様であり、その解決には多くの分野の知識が必要である。この状況の解決の為に、人類は持っている知識の全てを使うことが必要な時代になったと考えなければならない。その為には、科学者は自分の分野の知識を守り生み出すことに加え、他分野の知識と連合しながら、難問の解決の為に知識を使用するための研究が求められる。その成果が社会の行動者への助言となり、多くの分野の学問に支えられて難問を解決する行動が生まれる。わたしは知識を使用すると言う課題の研究は社会技術研究開発センターの使命そのものであり、センターの指導的活躍が必要な時代になったと考えている。
(吉川弘之、2022年12月)

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