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米国:米国の科学技術政策動向とバイデン新政権

2020年の米国大統領選挙は民主党候補のバイデン氏が勝利を宣言し、政権移行に向けたプロセスが進められることとなった。バイデン氏は選挙戦を通じ、新たな政権の下で米国を「より良く復興(ビルド・バック・ベター)」すると訴え、トランプ政権からの路線転換を強調してきた。科学技術政策上の優先事項やアプローチも大きく変化する可能性がある。
本資料では、新政権の発足を見据え、(1)トランプ政権下での科学技術政策動向、(2)バイデン新政権の政策提案(科学技術関係)、(3)今後の注目動向についてまとめた。

(1)トランプ政権下での科学技術政策動向
 トランプ政権は科学技術関係機関の人事や予算教書(予算に対する政権の考え方)における研究開発予算など、科学技術全般に対し消極的な姿勢が表れていた。特に、後期段階の研究開発は民間セクターがすべきとしてエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)廃止や再生可能エネルギー研究の大幅削減を標榜したことは象徴的といえる。また環境・気候分野の研究も大幅削減の方針が毎年掲げられた。一方で、予算編成権を持つ連邦議会はこれら方針を受け入れず、超党派で予算を確保する方向に動き、結果としてトランプ政権下における連邦政府の研究開発予算は維持あるいは増に至っている。
 また、政権後半にかけて大統領府の体制が整備され、科学技術政策の検討枠組みも徐々に進展した。研究開発では「未来の産業」というフレームの下、AIや量子などの大型研究開発投資が打ち出された。なお、こうした先端技術の不当な国外流出への対処も重要な課題として焦点が当てられた。

(2)バイデン新政権の政策提案(科学技術関係)
 バイデン新政権の政策提案の中核に位置付けられているのが環境・気候変動問題への取り組みである。2050年の温室効果ガス排出実質ゼロを目標に掲げ、米国を地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」へ復帰させる見込みである。目標達成に向け、クリーンエネルギーのインフラに4年間で2兆ドルを投資することや、クリーンエネルギー技術の導入促進のため4年間で4,000億ドルの政府調達を充てることも打ち出している。
 先端技術についても4年間で3,000億ドルを投資する。ここでも、研究開発領域としてAIや5Gなどに加え電気自動車を挙げるほか、国防高等研究計画局(DARPA)をモデルとした「気候高等研究計画局」の新設を提案するなど、環境・気候変動問題に資するイノベーション創出が随所に盛り込まれている。
 また、新型コロナへの対応に当たっては専門家の科学的助言を政策に取り入れることを明言し、世界保健機構(WHO)からの脱退も撤回するなど、国際協調と科学的知見を重視する姿勢を明確にしている。

(3)今後の注目動向
 各分野では、歴代政権下おいて省庁横断の研究開発イニシアチブが継続されている。また、予算編成権を握る連邦議会では研究開発イニシアチブ提案に関するさまざまな超党派の動きが進行している。こうした点も含め、新政権において各分野の研究開発がどのように強化あるいは転換されていくかが注目される。