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科学技術イノベーション促進型公共調達制度の国際比較調査

エグゼクティブサマリー

諸外国では、科学技術イノベーションの促進や社会課題の解決にいち早く結びつけるために、工夫された公共調達制度・スキームを整備・運用している。今般CRDSは「イノベーション促進型の公共調達制度」に関する国際比較調査を行った。本資料はその結果を整理し公表するものである。

一般に行政府・自治体等の公的調達を担う機関は、イノベーションにつながる可能性はあっても不確実な技術を伴うような調達に対しては、抵抗感が強い。従来の十分に市場化された、あるいは標準化された既存技術を選択する「不確実性回避型の調達」による傾向がある。このことは過去、2007年に発行したCRDS調査報告書「イノベーション指向型の公共調達にむけた政策課題の検討:欧米との比較調査を踏まえて」でも指摘し、方策を検討してきたところである。しかし、わが国では未だ進展の滞る構造的問題が残ると考えられることや、近年の情報科学技術の発展をきっかけとする様々な新技術・新サービスを実現する可能性のある潜在的なイノベーションの促進には、さらなる制度改善や制度設計の検討が重要となる。イノベーティブな新技術を用いた製品・サービスの、商業化前段階からの公共調達制度の活用や、公的研究開発活動の過程における公共調達の活用、制度活用企業としてのスタートアップ・中小企業等の参加資格要件の緩和など、様々な観点が存在する。

近年、科学技術イノベーションを促進し、そのエコシステム形成に結びつけていくための政策的ツールとして、公共ニーズや政策ニーズをもとに、公共調達を積極的に活用する国・地域は世界的に広がりを見せつつある。それらはわが国における関連検討において参考となる内容や事例も多い。そこで本調査では、各国の諸政策や法令・公会計制度等の違い、背景を踏まえた上で、イノベーション促進に資する公共調達の諸制度に関し国際比較調査をおこなった。その上で、わが国における科学技術イノベーション促進型公共調達の在り方を検討する上での基礎資料にすべく、諸問題・課題について分析・考察を試みた。

調査の結果、対象とした欧州(EU、英国、ドイツ)、米国、韓国ではいずれも、法令・規則のレベルから、具体的な制度整備・運用まで、多様なスキームを擁していることが明らかとなった。各国・地域におけるイノベーション促進に関わる制度設計の歴史的背景や国情から、それぞれに違いや特徴があるものの、いずれの調査対象においてもイノベーション促進に有効な手立ての一つとして、公共調達を工夫して活用する具体的な制度や支援機関を整備している。他方で日本と比較した場合には、内閣府が策定した関係ガイドラインの整備や、日本版SBIR制度を通じた検討の他、個々様々な事業単位での取組は存在するものの、各国に類するような包括的な法規や制度、機関は未成熟といえる。このことから、日本に適したイノベーション促進型公共調達の制度整備や運用の検討において、諸外国の動向は参考になるものと考えられる。もって本調査情報を、科学技術イノベーションの促進・エコシステム形成を検討する際の一助としていただきたい。

※本文記載のURLは2023年5月時点のものです(特記ある場合を除く)。