科学技術・イノベーション動向報告 フランス編
エグゼクティブサマリー
日本では近年、安全保障環境が変化していることに伴い、民主主義や法の支配などの普遍的な価値観を共有する国や地域との連携を強める必要性が高まっている。欧州連合(EU)の研究・イノベーション助成の総合プログラム「Horizon Europe」への日本の準参加がさかんに議論されているのはその典型例だが、そのEU域内の研究開発投資額の約16%を占め、研究者数の約17%を有するなど、大きな役割を果たしている国は、フランス共和国である。フランスは研究開発において「欧州をリードする」(複数年研究計画法)ことを国是の一つとしている。欧州全体の考え方や仕組みを正しく理解するうえでも、フランスの動向を把握しておくことは重要である。
科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)は「主要国・地域の科学技術・イノベーション政策動向」として、フランスを含む主要各国の研究開発の政策動向をまとめた報告書を毎年度公開しているが、それに加え、不定期的に特定の国や地域に特化した報告書なども発表している。本書以前にCRDSがフランスに特化して公開した成果は「フランスの科学技術情勢 大学再編とシステム改革によるイノベーションへの挑戦」(白尾隆行ほか, アドスリー, 2019年)である。
それからすでに約7年が経過し、この間フランス政府は、国として研究開発の優先度を高く位置づけて中長期的な予算措置を重視する政策(「複数年研究計画法」、2020年12月〜)や、国として優先すべき研究開発領域を定めて重点的に投資する政策(「フランス2030」、2021年10月〜)などに相次いで着手。国際的な研究開発競争や安全保障環境が厳しさを増すなか、複数年の枠組みによってイノベーションの創出や技術主権の確保に注力するようになっている。 CRDSは、こうしたフランスの研究開発の動向を改めて詳しく整理し、報告書としてまとめている。
本書は、▽科学技術・イノベーションの政策概要(第1章)、▽科学技術・イノベーションにかかわる機関(第2章)、▽科学技術・イノベーションの主な施策(第3章)、▽主な施策上の課題(第4章)、▽主な分野・領域の政策動向(第5章)、▽主な国際連携の動向(第6章)――の章立てで構成している。そしてこれらの章に加え、「2000〜10年代の『拠点化政策』」「専門用語集」の2編の付録も末尾に設けている。
フランスの研究開発には例えば、多様な機関が集まって共同研究機能を作る環境や伝統が定着している、地域イノベーションの創出に政策的な配慮がなされている――などの独自の強みがある一方、複数の機関同士の連携の効果創出が不十分、研究人材の待遇が不十分――など、日本にも共通する課題が多々ある。フランスや欧州への理解や考察を深め、そして日本の研究開発のあり方を考える、その手がかりとして本書を活用いただくことを期待している。
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