研究開発の俯瞰報告書 科学技術・イノベーション政策の諸課題を巡る主要国・地域の動向(2025年)

エグゼクティブサマリー

我が国の科学技術・イノベーション(STI)政策は、1995年に成立した「科学技術基本法」とそれに基づく「科学技術基本計画」によって進められてきた。2020年に同法は「科学技術・イノベーション基本法」に改正され、イノベーション創出の促進が新たに目的として加わった。なお、この法改正に対する附帯決議では、科学技術の振興とイノベーション創出のバランスに十分留意するよう求める旨が強調されている。

第二次世界大戦以降、STI政策は知識基盤を充実させつつ、時代ごとの政策的な優先課題に対応して、その枠組みを累積的に拡大させてきた。そこでは、その時々の世界情勢、市場と国家の関係、社会の価値観、重要技術などがイノベーションモデルの転換を促し、それを受けてSTI政策の目的や手段、そして想定される国の役割が変化してきている。

現在は、社会経済の変化や持続可能な社会への移行への対応として、社会変革型イノベーション政策の枠組みの拡張が求められている。加えて、経済安全保障の重要性が増大しつつある。また、人工知能(AI)や量子技術など新興技術の急速な発展とその社会的影響の増大を受けて、新興技術のガバナンスの必要性も高まっている。これらの要素が相互に影響を及ぼし合う状況が形成されつつある。

我が国のSTI政策に関しては、研究開発システムの強化、社会課題の解決に向けた取り組み、イノベーション・エコシステムの構築、そして経済安全保障への対応など、重要な課題が多く指摘されている。これらの課題に対して、科学技術振興とイノベーション創出の二つの軸を相互に連携させながらバランスよく推進することが望まれる。本報告書は、そうした検討に資することを目的として、我が国を含む主要国・地域の動向を取りまとめた。なお、海外動向については主に米国、欧州連合(EU)、英国、ドイツ、フランス、中国を参照しているが、政策課題によってはこれら全てを取り上げていない場合や、他の国・地域の事例を挙げている場合もある。

※本文記載のURLは、2025年1月末時点のものです(特記ある場合を除く)。