研究開発の俯瞰報告書 俯瞰の前提(2023年)-現下の国際情勢と「科学と社会」-

エグゼクティブサマリー

科学技術と現代社会は密接不可分な関係にあり、相互に影響を及ぼし合っている。科学技術イノベーション政策や研究開発戦略を検討する上では、この関係性を常に意識することが求められる。本稿「俯瞰の前提」においては、科学技術を俯瞰するにあたり、その前提として理解・共有すべき、「現下の国際情勢」と、それを踏まえた「科学と社会」との関係に係る問題意識を整理した。

2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(以下、コロナパンデミック)は世界に大きな衝撃を与え、世界経済はいまだにその影響から回復し切れていない。加えて、近年の米中覇権争いの激化や2022年2月のロシアによるウクライナへの武力行使(以下、ウクライナ侵攻という) は、世界的な分断を加速させるとともに、グローバルサウスといった国々の台頭など地政学的構造の大きな変化をもたらした。また、サプライチェーンや安全保障などに対する関心を大きく惹起させるなど、現下の国際情勢は経済、政治、軍事など広範な領域において極めて流動的かつ不透明な状況を呈している。

科学技術の急速な発展が現代社会に大きな変化をもたらすと同時に、社会の側からも科学技術に多くの要請がなされる時代を迎えている現在、科学と社会との関係を適切に踏まえておくことは極めて重要である。一方、必ずしもこの認識が科学者、技術者の間で日常的に共有されているわけではない。

本稿においては、非常に広範な観点が含まれる「科学と社会」について、以下の3つの階層に整理したうえで、科学技術を俯瞰するにあたって必要となる「科学と社会」の視座を記述している。

  • 最も基層的な部分として、「科学」に対する考え方の変遷
  • 「科学と社会」における具体的な諸問題
  • 科学と政策

なお、科学と政策については、「研究開発の俯瞰報告書 日本の科学技術・イノベーション政策の動向(2023年)」を参照されたい。

※本文記載のURLは2023年6月時点のものです(特記ある場合を除く)。

目次

研究開発の俯瞰報告書 俯瞰の前提(2023年)-現下の国際情勢と「科学と社会」-

  • 1 現下の国際情勢
    • (1) 総論 -グローバリズムの行方-
    • (2) 地政学的な変化 -米中覇権争い、ウクライナ侵攻-
      • ① 米中覇権争い
      • ② ウクライナ侵攻
      • ③ 地政学的な変化と世界の情勢
    • (3) 世界経済・社会の動向
    • (4) コロナパンデミック
    • (5) 地球温暖化
    • (6) 日本の立場に関する補足
  • 2 「科学と社会」
    • (1) 科学自身の変遷(哲学・歴史)
    • (2) 科学と社会の諸問題
      • ① 科学及び科学者の責任の問題
      • ② 一国における科学と政府・市民の問題
      • ③ 一国における科学と産業界・企業の問題
      • ④ 科学と国際政治・安全保障の問題
    • (3) 分野ごとの「科学と社会」
      • ① 環境・エネルギー分野
      • ② システム・情報科学技術分野
      • ③ ナノテクノロジー・材料分野
      • ④ ライフサイエンス・臨床医学分野